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「チャレンジ企画ってこと? え、さっきの人のこと好きじゃないの?」
「ん? 好きは好きだよ。だって市ヶ谷椿だよ? 見たでしょ、超イケメン」
「女の子なら誰だって好きだよねー」
「あーあ。わたしもチャレンジしようと思ってたのになぁ」
口々に喋りだす彼女たちは、友達の恋を応援するために居たのではなく、順番待ちしていたのかと葵は呆れて言葉もない。だとしたら、自分はあの市ヶ谷椿という男に見当違いな説教をかましたということで──。
「……なんだよ、それ」
呆然とつぶやく葵の横を、女の子たちがキャッキャと笑いながらすり抜けて行く。正義漢ぶって飛び出したはいいものの、とんだピエロだ。あの男……市ヶ谷椿は彼女たちのデートチャレンジを知っていたのだろうか。みんなチャレンジしていると言っていたからには、連日、彼のもとへ女生徒が列をなしているに違いない。
そう考えると葵は、あまりのことに頭を抱えてうずくまるよりなかった。失礼なのは酷いことをしているのは彼女たちのほうで、そうと知りつつもくだらないチャレンジに付き合ってやっている市ヶ谷椿のほうが、ずっとずっと優しいのではないか。
授業開始のチャイムが鳴っても、葵は屋上から一歩も動けなかった。
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