春は花びら(3)

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春は花びら(3)

 イクカイクカ?  頭の中で言葉の変換が出来ない。  しかし、あの店主が放つ言葉の重みに男の身体は震える。  店主は、何もなかったかのように猫のケトルを五徳に置いて火を掛ける。  カウンターの角に座った薄気味悪い眼帯の女子高生がじいっとこちらを見ている。  なんなんだ・・・こいつらは⁉︎  男は、畏怖に駆られながらも考える。  そうだ。オレはいつだって考えてきた。  考えて考えて危機を乗り越えてきたのだ。  そうあの時だって。  男は、弾けそうな心臓を呼吸を整えて落ち着かせる。  そして笑みを浮かべる。  ここに来た時と同じ、穏やかな笑みを。 「決めるとはどのようなことを?」  男の言葉にスミは、ケトルから目を離す。  そう、まずは相手の出方を見るのだ。  そして対策を考える。  俺なら出来る。  しかし、スミの発した言葉は、あまりにも単純だった。 「話してください」  男の顔に疑問符が浮かぶ。 「話す?何を」 「さあ」  スミは、頭を振る。 「話すことが何なのかは私には分かりません」  男は、肩を竦める。 「お題もなく話せと?無茶振りが過ぎませんか?」 「話すことはもう貴方の中で分かってるはずです」  スミは、先程まで男が座っていた場所に招くように手を差し出す。 「こちらに座ってお話しください。貴方の話したいことを」  取り繕うこともしないスミの言葉に男は苛立ちを覚える。  大体、俺が話したいこととはなんだ⁉︎  お前に俺が何を話す必要があると・・・⁉︎  その瞬間、男の脳裏に一つの事柄が浮かぶ。  そして思わず唇の端を吊り上げて笑う。  そうか、こいつは・・・。  男は、ゆっくりとした足取りで自分の座っていた席に戻る。  そしてスミを見上げて笑う。 「貴方・・・知っていたのですね。私のこと」  スミは、何も答えない。  男は、それを肯定と取った。 「それならそうと言ってくれればいいのに。こんな回りくどいトリックを使わなくても、ねえ」  男は、同意を求めるようにカナを見る。  カナは、何も言わなかった。  いや、何も言うことが出来なかった。  男をただ見ることしか出来なかった。 「いいでしょう。お話ししましょう」  男は、両肘をカウンターに置き、両手を組む。  どうせお前はこれが聞きたいんだろう?  男は、ほくそ笑む。 「私があの男を殺した話しを」
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