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高校生になっても、私のその能力が失われることはなかった。
ある日のこと、私は授業が終わって真っ直ぐ家に帰ってきた。路地を入ればすぐそこが家だ。角を曲がった途端、私の体は固まった。
「なんでうちに鯨幕が?」
すぐに体調を崩して入院しているおばあちゃんの顔が頭に浮かんだ。たちまち冷水を浴びせられたように体中に鳥肌が立った。
我に返った私は、家に駆け寄り鯨幕を引き剥がそうとした。しかし、伸ばした両手は手品のように幕を突き抜けて、虚しく空を切るばかりだった。諦めた私は来た道を引き返すと病院へと急いだ。
「おばあちゃん!」
ベッドに横になったままのおばあちゃんは、ほんの少しだけ顔をこちらに傾けると、病室の入り口で立ちすくみ肩で息をする私を見て目を細めた。
「紀子……」
掠れた声を聞くと同時に、私はべそをかきながらおばあちゃんに近寄ると、そっと頭をその痩せた胸に預けた。おばあちゃんは点滴の入ったか細い手で、優しく私の背中を撫でながら、「大丈夫、大丈夫」と何度も繰り返した。消毒薬のにおいは苦手だったけれど、毛布越しに伝わるおばあちゃんの暖かな体温がなんとも心地よかった。
おばあちゃんが天国に旅立ったのは、それから一週間後のことだった。以来、私が鯨幕を見ることはぱたりとなくなった。
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