夢から覚めたら過酷な現実が待ってました。どうやら私は独りで生きねばならないようです。

最終章

　もしもリリスに恋人が出来たとしたら。

　その後、ジンがリリスに成り変わって生きていくのならば、その『恋人』は彼にとって大きな障害になってしまうだろう。

　故にジンは、リリスには可能な限りそういった出会いがないようにと、ずっと気を張っていたきらいがある。

「私の身に危険が及ばないように、過保護に護ってくれているのかとも思ったけれど。……でも、本当はそうじゃない。あなたは自分の為に、私に親しい人物が出来ないようにしていたのね」

「ご名答。全部、僕自身の為だよ。君の為なんかじゃない」

　それを聞くと、リリスは無言のまま俯いてしまった。
　これにはさすがに衝撃を受けたのだろうと、ようやくジンは溜飲が下がる思いで嘲笑する。

「『信じていたのに裏切られて悔しい！　この外道！　悪魔！』と、罵倒したいのだろう？」
「……」
「どうぞ、思う存分罵(ののし)って嘆き悲しんでくれ。さぁ、さぁ！」

　それこそが、ジンの最大の楽しみだった。
　幸せの絶頂からの急転直下。
　不幸のどん底へ転がり落ちる嘆きに哀しみ。
　そして、憎悪。
　そういった人間の感情を吟味して堪能するのが、ジンの唯一の楽しみだった。

――だが。

「いいわよ」
「え？」
「どうぞ、この身体に乗り移ればいいわ」

　と、穏やかな表情で微笑むリリスに、ジンは今度こそ驚愕した。
　この場面では、正気を失う程狂乱して、無様な醜態をさらす筈だろうに！

「僕がいま言った意味を理解していないのか？　僕が君の身体を乗っ取ったら、君の意識は完全に死ぬことになるんだぞ？　死して彷徨うグールと何ら変わらないのだ」