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 今までの人生で、そんな無礼なセリフを言われたことが無かったので、リリスはかなりビックリした。  本当に自分が絶世の美女だと思っているかどうかなんて、他人がそう言ってくるのだからリリス本人はどうしようもない。  あえて謙遜するのが美徳と言うのなら、自分だってそうしている。  人から称賛されるたびに『そんな事はありませんわ』と、首を振って慎ましやかに微笑みを返している。  貴族だからと言って、リリスは決して威張ったり傍若無人に振舞った事は無い。  それなのに、まるで自分がそのように振舞っているようなニュアンスで語られた事には、さすがにリリスも気分が悪かった。  そんなリリスの内心を察し、アンリは憤然を声を上げる。 「まぁ! なんて無粋な方なんでしょう! いくらお嬢様の気を引きたいからと言って、そんな言い草をなさるなんて田舎者の証拠ではありませんか」 「え? 気を引きたいですって?」  首を傾げるリリスに、アンリは深々と頷いた。 「お嬢様には、見目麗しく財力もある殿方が次々と文を届けております。言ってしまえば、選り取り見取りです」  フンっと鼻息荒く、アンリは言う。 「ですから、出遅れたマーベラ男爵家がここから挽回するには、何か大きなインパクトでもなければダメって事です。なのでそのような無粋な事を、あえて仰ったんでしょう」  好きな子の気を引きたくて、つい悪口を言ってしまったと……。  そう結論付けて、アンリは切り替えるように笑った。 「うふふ、カリム・マーベラ様は、そんな子供じみた手法など全くの逆効果だってのを知らない、とても鈍感な殿方なんでしょうね。たしかに、お嬢様には合いませんね」 「……うん、そうよね……」  侍女のセリフに頷きながらも、リリスはどこかカリムの言い様にヒヤリと感じた。  裕福な事を象徴するようなお顔は見るからに幸福そうで、焼き立ての白パンのようにふっくらしていて可愛らしくて。  夕日のような赤い髪は、燃える炎のように美しく。  小さな瞳は、星空に輝くダイヤモンドのようだと。 ――――今まで言われてきたそれらは、確かに褒め言葉であったろうが。
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