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ナンセンスなジョークだと苦笑するリリスに、父親は真顔で口を開く。
「この際贅沢は言ってられない。クラシス家の為にも、お前にはこの方と婚姻関係を結んでもらわねば」
「え……?」
それはどういう事だろうか。
今までは、リリスが本当に付き合いたいと思った殿方が現われるまでは、好きなようにしていいのだと言っていたのに。
不思議に思い、リリスは父親を見つめる。
「お父様、何だか今日はご様子がおかしいわ。いったいどうなさったの?」
すると父親は腹を決めたのか、グッと唇を噛むと、次におもむろに語り出した。
「……クラシス家は、西炭鉱を新たに発掘する事業に多額の投資をしたのだ。それまでの採掘で鉱脈があるのは確実だとされたので、疑いもせずに財産のほぼ全てをな。だが、その情報は間違ったモノだった。幾ら掘っても出てくるのはただのクズ石だ。資金を回収する事は不可能だ。我が家は、このままでは破産する……!」
事業の事など分からないが、今が何かとんでもない事態なのだという事は、さすがにリリスにも察せられた。
「お……王家にお縋りすることは出来ないの?」
「面積だけは広い、こんな瘦せた土地の領主になど一銭も出すものか。奴らが熱心なのは税の徴収だけだ!」
「ですが、我が家の始祖はマルカラ神の降臨を妻に迎えた血族の、由緒正しい一族ではないですか。尊い血筋なのですから、王家も――」
「そんな何百年も昔のおとぎ話など、今はどうでもいいのだ!!」
父親から初めて受ける叱責に、リリスは驚いて言葉を失う。
すると父親はバツが悪そうに舌打ちをすると、とにかくこの窮状を救うにはマーロー男爵からの援助が必要なのだと言い捨てた。
だから、援助の見返りに、リリスはこの男に輿入れをしなければならないのだと。
「そんな――」
急転直下の出来事に、リリスは感覚が追い付かない。
つい数日前まで、皆から蝶よ花よと甘やかされていたのに。
それが、今まで会った事も無い、成金の中年男爵と結婚しろと!?
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