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 その事実を知ったのは、屋敷に到着して直ぐだった。  エントランスには大きな肖像画が掲げられており、そこに描かれていたのは、マーロー男爵に寄りそう美しい婦人の姿であった。  そのあまりに親密そうな画に、リリスは動揺しながら周囲へ視線を泳がせた。  すると、それに気付いたマーロー家の執事だという初老の男が、少し皮肉そうにそっと耳打ちしてきた。 「と、旦那様の肖像画でございます」 「奥様?」 「さようでございます」 「もしかして儚くおなりになった(亡くなった)の? それで私を、後妻に? なら、最初からそう言って頂けたら、私も取り乱すようなマネなど――」 「いえいえ」  クッと笑いながら、執事は言った。 「ミレイユ奥様はご健在で御座います。リリス様は、旦那様のとして今後お仕えせよとの事で御座います。私は旦那様から、そう(ことづけ)を賜りました」  衝撃の宣告に、リリスは茫然と立ち尽くす。 「私が側室? だ……旦那様は何処にいらっしゃるの!?」 「南の本邸で、ミレイユ奥様と共にいらっしゃいます。私を含め、主だった者たちも本邸で勤めております。この北の城は夏季の避暑地として使用する以外普段は使われていないのですが、この度はリリス様の為に開城した次第です」  殺風景でガランとしていて、ずいぶん人の気配のない寂しい城だと思ったが。  それもその筈、この城にはリリスを出迎えるべき人が誰もいないのだ。 (どういうことなの!? 私は一体何のために、こんな所に送り出されたの!?)  さすがに堪り兼ね、リリスは悲鳴のような声を上げて執事へ詰め寄る。 「私はこんな所に来たくて嫁いだのではありません! それに、側室って……それならそれで、どうして男爵は私を出迎える事さえなさらないの!!」 「ミレイユ奥様は、」 「っ!?」 「マーロー家待望の後継者で御座います。ゆくゆくは王宮へ上がり、現王子へ使えるよう取り計らっておりますが……残念な事に、こんな田舎の男爵では位が足りないのです」
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