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(位が足りないとは、どういうこと?)   執事が何が言いたいのか分からないリリスは、無言で先を促す。  すると執事は、意地が悪そうな笑みを浮かべながら、馬鹿にしたようにリリスを見遣った。 「生まれるお子様は、としてクラシス伯爵の名を冠する手はずになっております」 「え?」 「伯爵位ならば、王家に使えるに申し分ないですから」 「な……何を言っているのです? 私は――」 「リリス様は側室に入られますので、マーロー男爵ではなくクラシス伯爵のままでよいのです。我が国の法ではつまり、側室はそのまま分家として御実家の名前を継ぐことが許されますので……」 「私はそんな事を訊きたいのではありません!」  リリスは初めて声を荒げ、執事に詰め寄った。 「側室になって、自分の子でもない赤子に伯爵位を与えよと? 王家に上がって王子に使えさせたいから? それでは私は花嫁ではなくただのとして、こんな場所に来たという事ではないですか!」  興奮するリリスであるが、対する執事の方は冷淡な態度で、掴みかかるリリスの手をバシッと払った。  そうして、無情な一言を叩き付ける。 「ええ、そうですが」 「そうですが――って……」 「第一、マーロー男爵様があなたの持つ『爵位』意外に、用があるワケがないではありませんか」  執事の無礼な態度に言葉を失うリリスであるが、それでも何とか彼女は声を絞り出す。 「あ、あなたにそんな事を言う権利はありません。男爵様は、私に求婚したのは事実なのですよ」  だが、これに対する返答も実に辛辣だった。 「あなたように醜い豚のような令嬢を、本気で見初めて求婚する訳がないでしょう」 「わ、私が醜い豚ですって?」
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