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ジンとしては、願いが叶った筈のこの場面では、高らかに哄笑しながら勝利の美酒に酔い痴れるべきだと強く思う。
今までジンを召喚した人間たちは、皆そうだったというのに。
依然として全く晴れないリリスの表情に、ジンは次第に失望した。
「……君は、全然嬉しくないようだね」
「そんな事は――」
「じゃあ訊くが、何故君は一つも笑わないで、そんな浮かない顔をしているんだ?」
「だって……私の所為で、死人が出たのよ? 喜べるわけがないわ」
「リリス。君は六年前、魔法書に書かれていた通りに千日もの長い間必死に祈祷して、僕を呼び寄せたのだろう? それは、奴らに復讐する為ではなかったか?」
「……」
「答えろ、リリス!」
その問い質すような言いざまに怒る様子もなく、リリスは神妙に頷いた。
「そう、復讐する為にあなたを呼んだのは本当よ。心から信頼して愛していた皆に裏切られて、悔しくて悲しくて、どうにかなりそうだった私が唯一頼れたのは、おばぁ様の残してくれた魔法書だけだった」
「なら、願いが叶ったと言って狂喜するべきだろう!」
「……そうね。ありがとう、ジン。こんな私の為に、ずっと協力してくれて嬉しかったわ」
口では肯定するが、悲しそうに微笑むリリスからはとても『歓喜』の空気は感じられなかった。
――――やはりリリスは、喜んではいないのだ。
その事を思い知り、ジンは深く落胆した。
飽く程長く生きて来た彼にとっての少ない娯楽は、依頼主の狂喜乱舞を目の当たりにする事だったのだが。
(そうだ。これで満願成就だと高笑いをしながら幸せの絶頂を迎えた人間を、次に、一気に奈落へ落とすのが、僕の唯一の楽しみだったのに)
お楽しみの一つは、不本意にも不発に終わった。
しかし、もう一つの方は残っている。
ジンは意識を切り替えると、それでは今度はリリスに『絶望』を味わってもらうかと、クッと口角を上げてペロッと唇を舐めた。
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