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ジンは驚きを隠さないまま、唖然とリリスを見つめる。
「この僕が、自分自身さえ愛していないと? 何故そう思うんだ?」
「だってあなたは、いつも他人を羨ましそうに見ているもの。なのに、自分に向けられる好意には残酷なほど冷たい視線で報いている。ずっとそれを不思議に思っていたけど、何となくその理由が分かったわ」
そこで言葉を切ると、一層強くジンを見つめる。
「あなたは自分の事が好きじゃないから、そんな自分に対して好意を向けて来る相手も嫌い……というか、興味がないのよ」
反論したいが、それは事実だと何処かで思っている自分がいた。
なのでジンは、この身体になってから初めて動揺した。
(そんな、バカな! 僕はただ、人間どもが足掻く姿が面白くて愉快で。だから、そんな業を強く持っていたリリスに目を付けたんだ。全部、自分の娯楽の為だ。なのに、自分自身を愛していないなど――)
このままでは、リリスに対して主導権を握れない。
そう思ったジンは、態勢を整える事にした。
「ふん、面白い意見だね。君は、僕が今まで相手にして来た連中とはずいぶん違うようだ。陰謀に陥れられた悲劇のお姫様かと思いきや、思いがけない才能に溢れていたし」
チラリと、リリスの着ているスモッグに目線を落としながら言う。
「都に革命を起こす、斬新なデザインセンス。そのノートにはまだまだネタが書かれているんだろう? 君は世紀のファッション・リーダーだ」
「……今度は何を言い出すかと思ったら、そんな事?」
急にお世辞を言い始めたジンに、リリスは困惑する。
六年越しの復讐が叶った事をわざわざ確認したかと思えば、それを喜ばない事を暗に責めて来たり。
かと思えば、突然リリスの才能を称賛したり。
不思議そうな顔をするリリスに、ジンは最後通牒を突き付けるつもりで口を開いた。
「とにかく君の望みが叶った以上は、代償を頂くよ」
「『代償』?」
「そうだ、代償だ。まさか、何の対価も無いと思ったか?」
――いよいよ、リリスに絶望を味わわせる瞬間だ!
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