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ゾクゾクする程の快感に、ジンの顔に笑みが浮かぶ。
「対価は君自身だよ、リリス」
「? どういう意味かしら」
「僕がもらい受けるのは、君の全てだ。僕は今の『ジン』の身体を捨て、君の中へ居場所を移す」
ジンに至る前の、古の記憶は残っている。
王になってみたり、踊り子になってみたり。騎士になったり商人になったり。
その時々で、飽いては身体を変えて勝手気儘に生きて来た。
この身体になってから、もう六十年は経つ。
さすがに飽きて来た頃に、リリスという面白い人間を見つけた。
彼が、願いを叶えてやった代償として相手に要求するのは、金や生贄ではない。
その人物の残りの未来全てだった。
「願いが叶った事を認めた以上、君がどんなに拒否しても僕に対価を支払うという呪いは実行されるのだ。僕はこれからリリスとして、この王都で生きていく。だから君のノートは、僕の物として有意義に使わせてもらうよ。虚栄心の塊りのような王女たちを手の平で転がす事を想像すると、今からもう愉快でたまらない!」
ジンは哄笑を上げながら、絶望に慄いているであろうリリスを見遣った。
――さぁ、絶望と呪いの言葉を吐くがいい!
しかしリリスは、凪のように穏やかな表情で、ジンを見返した。
「……それが、あなたの本心だったのね」
「ああ、そうだとも! この僕が、まさか善意でここまでしてやったと思っていたのか?」
遠く離れたマーロー男爵の領地から、この王都までリリスたちを導いてくれた。
ツテの無いリリスの為に、上級貴族達に繋がるあらゆる道筋を作ってくれた。
お陰で今、リリスはこの国で一番輝いている。
「そうね……ずっと不思議だったわ。私が出世する事があなたの望みだなんて、ずいぶんと変な悪魔だなって」
この先、ジンがリリスに成り変わろうとしていたのなら、全てに理屈が通る。
そして、リリスが他の誰かに現を抜かすことを恐れ、阻止して来た事も。
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