127人が本棚に入れています
本棚に追加
そのセリフは、衝撃的だった。
ジンの顔色が目に見えて変わる。
「君は……自分自身の生も、ここで終わって良いと本気で――」
「ええ、そうよ。何の未練もないわ」
本当に一切の迷いもなく、リリスはそう答えた。
そうして、静かに目を瞑る。
今まさに、自分の身体を乗っ取ろうとしている相手を前にして、これは余りにも無防備だ。
だがリリスは、これ以上の栄華を極め得る可能性を前にしても、本当に何の未練も無かったのだ。
「――あなたには、感謝しかないわ。私の復讐を叶えるために努力してくれたのは事実だもの」
「……だから、代償として自分自身の肉体を差し出す事に抵抗は無いと?」
震える声で問うジンに、リリスは応える。
「その通りよ。この先の『リリス』の生き方は、あなたの自由にしたらいいわ」
「本気かよ……」
呆気に取られたような声にプッと吹き出しながら、リリスは何かを思い出したように口を開いた。
「あなたに、頼みがあるの」
「――頼み?」
威勢のいい事を言っていたが、やはり怖気づいて来たかと若干調子を取り戻しながら、ジンは冷笑を浮かべる。
「ハハハ、いいだろう、言ってごらん」
「アッシュとユリには、お願いだから酷い事はしないでほしいの。彼等には一生困らない分のお金を渡して、故郷に帰るよう暇を出してあげて。それが、唯一の頼みよ」
「――――アッシュと、ユリ? 唯一の頼みがそれか……」
これはとんだ誤算だ。この期に及んで、まだ他人の身の上を心配するとは。
このお姫様は、本当に自分自身には未練がないらしい。
それこそ、ジン唯一の楽しみだった阿鼻叫喚は、ここに来て全く発生しないようだ。
飽きる程の生を貪って来たが、こんなことは初めてだ!
最初のコメントを投稿しよう!