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本当に本当に幸せな挙式
結婚式の会場は、熱気に満ち溢れていた。色とりどりの紙吹雪と祝いの言葉が舞い、中央の道を通る新郎新婦を祝福する。
満面の笑みで彼らは周囲に手を振り、歩き続けていった。
「おめでとう、スミレ!」
「幸せになれよー!」
「ソラ、嫁さん泣かすんじゃないぞ!」
参列した大勢の人々は総立ちし、叫び、ハンカチをふっていた。
2人の両親や親戚、職場の同僚や上司など、彼らを知る人々の多くがその場にいた。そこにいる全員が、誰もが、夫婦となるソラとスミレを祝福していた。
「ありがとうございます、皆さん」
笑顔で周囲に笑顔を向けながら、新郎のソラと新婦のスミレは、同時に返礼の言葉を口にした。
ぴったりと同時に揃った言葉に、スミレは思わず隣を歩くソラの方を見た。白いタキシード姿のソラと目が合い、思わず吹き出してしまう。
「ふふ、今のぴったり揃ったね」
その言葉すらも、まるで息を合わせたかのように、全く同じタイミングで吐き出された。まるで、せーので同時に言葉を発する子供のように。
けれども、その例えは決して正しくはない。
「おめでとうー!」
「おめでとう、2人とも!」
周囲を取り巻く祝いの言葉に身を委ねながら、スミレは、ソラを見た。
周囲を取り巻く祝いの言葉に身を委ねながら、ソラは、スミレを見た。
「これからも、よろしく」
溢れんばかりの幸せを、両手いっぱいに抱えたまま、互いに笑い合う。
2人とも、とても幸せだった。
これからの未来も、きっと幸せになる。
***
「これからもよろしく、か」
2人の担当医師である石本は、参列席で起立して拍手をしながら小さく呟いた。しわの刻まれた顔が微かに歪む。
「彼らにとっては、それが幸せなんだろうね」
拍手の音に包まれて、石本は遠くに歩く新郎新婦を眺めた。
ソラとスミレの症状は、既にかなり進行している。運命共同体症候群というのは致死性の病ではないが、しかし互いの人生に大きな影響を与える。
両者の自己を打ち壊し、アイデンティティを強引に捻じ曲げ、性格も思考も外見も、心情すらも無理やり融合させられるのだ。『スミレ』と『ソラ』の人格がどんどん損なわれていくのを見て、周囲の人間は何を思うのだろう。
だが、他人の感情などあの2人には関係ない。互いが幸せであれば、永久に彼らは幸福であり続ける。
まるで、世界の全てを敵に回してでも互いを愛し続ける主人公のように。
はて、こういった物語を、こういった終わり方をなんと言ったであろうか。石本は頭上を仰ぎ、真っ白な会場の天井を見やった。
「確か────」
(完)
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