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病院にて
一度精神科を受診して、運命共同体症候群の診断を受けてみる。家に帰って母にそう伝えると、母はどこか安心したような顔を浮かべた。
しかしそれが他でもないソラからの提案であると聞くと、たちまち表情が鬼のように豹変した。
やめなさい、あの男の言うことを聞くのは。もうどれだけ付きまとわれてると思っているの。14年よ、幼稚園からずっとよ。
ヒステリックに叫ぶ母は金切り声を上げて反対したが、スミレは決して首を横に振りはしなかった。もうこれしかないと、心のどこかで思っていたからかもしれない。
実際、他に方法はないのだ。母は信じていないし、周囲の人間は誰もそうとは思っていないが、これは偶然ではない。
かといって、意図的でもないのだ。
電話で予約を済ませると、スミレはリビングのソファに体を沈めた。大きく息を吐きだす。
「もう、これしか残ってないんだ。たぶん」
初めてソラと会ったときのことを思い出しながら、スミレはそっと目を閉じた。
***
ソラとは、同じ幼稚園の同じ組だった。スミレとソラという本人たちが仲が良かったこともあるのだろうが、親同士でもずいぶん馬が合っていたらしい。
家族ぐるみで付き合いを続けていて、小学校に上がってからもそれは変わらなかった。
ソラとは常に同じクラスで、名字が一字違いということもあって席は必ず前後で接している。最初は、何も不自然に思わなかった。
二人は仲良しだから、先生たちも一緒にしてくれてるのよね。母とそう言って笑ったりもしたものだ。
だが、高学年になる頃には、既にお互いがその関係性の異様さに気づき始めていた。
スミレたちの通う学校は、俗に言うマンモス校であった。
一学年にクラスが10以上あり、クラスの人数は40人近い。
だというのに、毎年毎年ことごとくが、前後の席になるのだ。2人の間に誰かが座るということや、別々のクラスになるということがあってもいいはずなのに。
先生たちに聞いてみても、2人が必ず同クラスになるような調整はしていないとのこと。しかもさらに不気味なのは、毎回席替えはくじ引きで決めているにも関わらず、スミレとソラは絶対に隣の席になるのである。
ズルやインチキ、不正が疑われたが、何度やっても、二人は必ず隣同士か前後の席になり、離れないのだった。
2人のことを運命の恋人と言って羨ましがる同級生もいた。だが、そんなことばかりも言っていられないほどに、事態は深刻化していったのだ。
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