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受診するときは、必ず当事者の2人で来ることが義務付けられている。ゆえに、スミレはソラが指定した病院の入口の側で、コートに身を包んだまま立っていた。
待ち合わせ場所も時間も指定していない。本当ならばスミレの頭の中を覗きでもしない限り、どこに行けばいいかソラにはわからないはずだ。
しかしそれは不要だと、長年の経験で分かっていた。
そもそも彼が運命共同体症候群という言葉を口にした時点で、既に気づいていたのだ。
2人の考えることは、同じだということに。
「ごめん、遅れた」
向こうから駆けてくる人影がある。ソラだ。まだ寒いのか、スミレと同じように薄手のコートに身を包み、首もとまできっちり覆っている。
その格好がほとんど自分と変わらないことに、もう違和感は抱かない。ずっと昔からこうだった。
「じゃあ、行こうか」
ソラが言うと同時に、スミレも口を開いていた。慌てて互いに顔を見合わせ、口を抑える。
やはり、はやく受診した方がよさそうだ。
***
スミレが高校に上がる頃には、何かがおかしいと、周囲の誰もが気づくようになっていた。
スミレとソラは、何度くじを引いても同じ班になった。
昔はそうでもなかったのに、今や趣味や好きなものが完全に一致していた。何も言わずとも待ち合わせができるほどに、互いの思考が理解できていた。
相手の思考を読んでいるわけではないし、互いのことを逐一調べたり報告したりしあっているわけわけでもない。
だが、赤の他人にしては2人は、あまりにも共通点が多すぎた。そして、故意によるものではない随伴が多かった。
まるで、2人が元は同じ人間であったかのように。
***
「確かに、運命共同体症候群ですね」
宣告の言葉は、覚悟していたとは言え重々しかった。白衣の医師は、眼鏡をかけた顔にわずかばかりの哀愁をにじませながら言葉を続けた。
「この病気は、患者のお二人が成長していくほどに重症化していきます。今まで運命共同体症候群の患者の方々の診察は全て受け持ってきましたが、最終的には──」
沈鬱な表情で、石本医師は首をふった。診察室を重い空気が満たした。
スミレは椅子に座ったまま、手を強く握りしめた。隣ではソラが、全く同じように下を向いて座っていた。
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