0人が本棚に入れています
本棚に追加
それは世界にも類を見ないまれな「病気」で、その道のプロといわれる石本もほんの数件しか担当したことがないそうだ。
そのためところどころに憶測と予想を交えながらも、彼は話してくれた。
***
運命共同体症候群。赤の他人同士であったはずの2人が、だんだん「同じ」になっていく奇病だ。家が隣同士で両親の仲がいいと、発症する可能性が飛躍的に高まるらしい。
初期の症状は環境的一致。家や遊び場、学校のクラス、習い事の教室といった、生活環境が同一になることだ。それはややもすると当然のことのように思えるし、偶然という言葉が当てはまるだけのようにも聞こえる。
しかし、事実そうではない。
小学校の高学年から、思考的一致という症状が見られるようになる。考えることや言うことが、どことなく似る現象だ。
この現象は歳を重ねるごとにだんだん重くなっていき、最終的には思考が同じゆえに超能力の類だと嘯かれることもあるほどである。
恐ろしいのは、その一致した思考ゆえに、患者2人の差異がなくなってしまうことだ。複数人の人間が同じ信条に基づいて全く同一の言動をするということは、つまり『個性の喪失』に等しい。
しかも、これは相手と感覚を共有しているも同然だから、自分が心地よく感じられることは当然相手にとっても都合よく感じられる。
自分の喜びは相手の喜び、相手の不幸は自分の不幸。
まるで赤い糸が具現化したかのようなこの「症状」は、まさにその名の通り、運命で2人を結びつける。
彼らの重なる意志は、別れ道を塞ぐ銀色の鍵なのだ。
成人する頃には症状は更に重症化し、もし効果的な治療薬が開発されなかった場合は、お二人は────。
石本が口ごもったその言葉の先を、スミレとソラはなんとなく予想していた。
彼が何を言わんとしているのかも、そして数年後、自分たちがそうなるであろうことも。
このことに関しては、見事に2人の予想が的中した。
最初のコメントを投稿しよう!