ラブリー・スノー・ホワイト

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 ***  お妃様は驚いた。自分が思っていたよりもずっと、白雪姫が聡明だったことに。 「貴女のような腰の曲がったおばあさんが、馬に乗って来るなんて変だし。それに、このネックレスには見覚えがあるもの。カミラさんが、いつも身に付けていたもの。だから、あのおばあさんはカミラさんが変身したものだって気づいたの。カミラさんは魔女だから、それくらいできるだろうなって」  お妃様を椅子に座らせて、白雪姫は言う。 「で、よくよく考えたら跡取り娘の私をお城の人が連れ戻しに来ないはずがなかったんだよね。あの林檎も、なんか薬でも入ってるでしょ?私みたいな怪力娘を取り押さえるには、麻痺くらいさせないと勝ち目ないんだろうし」 「あ、ははは……」  麻痺じゃなくて下剤ですごめんなさい、とは言えない。お妃様は引き攣った笑みを浮かべる。 「ごめんなさい、カミラさん……お手間をかけさせて。でも、私はあのお父様のところには戻りたくないの」 「でしょうね……」 「うん、それから……カミラさんとの付き合い方がわからなくて、距離を取ってしまっていてごめんなさい。カミラさんの事が嫌いなわけじゃないけど、私にとってはやっぱりお母様は一人だけだったから。新しいお母様と言われても、受け入れられなかったの……」  本当にごめんなさい、と頭を下げてくる少女。そう言われてしまっては、お妃様とて何も言う事ができなくなる。  母親は、一人だけ。他の母親を押しつけられても苦しいだけ。当たり前のことだ。自分が同じことをされても、きっと拒絶するだろうから尚更に。 「……貴女の言い分は、正しいわ。そうね、私も身勝手だった。貴女の心を無視して、連れ戻そうなんてどうかしてる。あのお父様のところに戻りたくないのもすごくよくわかるし」  これは、今度こそ諦めるしかないだろう。お妃様が立ち上がろうとした時、待って!と白雪姫はお妃様のローブの裾を掴んで言ったのだった。 「このまま貴女だけ戻ったら、また冷遇されるんじゃないの?……そもそも私を連れ戻すのに、家臣じゃなくて妃を向かわせてるってだけで普通におかしいから!……何か酷いことを言われて、無理矢理にでも私を連れ戻してこいとか命令されたんじゃないの!?」 「……っ!」  誰も。  誰も自分のことなど、慮ってくれないと思っていた。気にしてくれない、心配してくれない、愛してくれないと。でも。  大嫌いな他人の娘だと思っていた人物が、初めて。お妃様の辛い状況に、気づいてくれようとしている。お妃様は、泣きそうな気持ちで白雪姫を振り返ったのだった。 「……話、聴いてくれる?」  その後。  お妃様と白雪姫は、お城に戻って王様を一発ぶんなぐると、そのまま森に帰っていったのだった。  王様が改心するまで、二人の長い“家出”が終わることはないのだろう。  めでたし、めでたし。
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