ラブリー・スノー・ホワイト

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 *** 「ほんっとうに可愛くない、あの娘!」  後妻であるお妃様は馬に乗って、えっちらおっちらと森に向かっていた。 『うわあああああああああああああ儂の可愛い娘ちゃんが家出したああああああああああああああああああああああ!お前のせいだぞカミラ!お前が娘ちゃんと仲良くできないからあああああああああああああ!!さっさと連れて帰ってこい、今すぐに!!』  ちなみにカミラ、というのがお妃様の名前である。  子供のように大泣きして、床に転がって駄々をこねた王様。あんな醜態を見てしまっては、嫌でも自分が行くしかない。ていうか、あんな醜態晒す王様の傍にいたくないというのも正しい。  渋々、お妃様は愛馬に跨って森の中へ向かったのだった。この森の奥には、七人の小人が暮らしているという噂がまことしなやかに囁かれているし、きっと姫もそこにいるのだろう。一国の姫君が、一人でテント張って元気に野宿していたらそれもそれで嫌すぎる。  小人たちの家はすぐに見つかった。屋根の煙突からいい匂いのする煙が立ち上っており、それが目印になったからだ。  レンガ造りの、七人も住んでいるとは思えないほど小さな家。こんな家に、十二歳のお姫様が本当に逃げ込んできているのだろうか。 「!」  様子を伺っていたお妃様は、誰かが近づいてくる気配を察して慌てて木陰に隠れた。そして、とんでもないものを目撃してしまう。 「お待たせー」  それは。  巨大なヒグマを背負って森の奥から戻ってくる、白雪姫の姿だった。 「ちょっと仕留めるのに手間取っちゃってごめんねえ。今日はクマ鍋にしましょう!」 ――ちょ、ええええええええええええええええええええええええ!?  白雪姫、手をクマの血で真っ赤に染めてにっこり笑っている。武器らしい武器もないし、まさか素手で仕留めたのだろうか。家の中から、わらわらと小人たちが現れて姫を賞賛する。 「すごい、流石は白雪姫!」 「この間は巨大イノシシを仕留めたばかりなのに!」 「クマ鍋!クマ鍋!」 「白雪姫の噂を聞いてから、怖い動物も漁師も近づかなくなって本当に助かってるよー」 「ありがとう白雪姫!ありがとう!」 「うれしー!」 「料理は任せて!」 「うふふ、これからもどんどん狩りをしてみんなを助けるからね!期待してて!」  腕まくりをして腕をむきっ!とさせながら言う姫。 「ほんと、お母様も馬になんか乗らないで徒歩で熊を狩りに行けばよかったんだよ。そうすればきっと死なないですんだのにさー」  いや、絶対そう言う問題じゃない。心の底からお妃様はツッコミを入れた。  さすが、熊狩りに行って死んだ前妻の娘である。いろんな意味で怖すぎる。 ――あ、あれを……連れ戻すの?貧弱な魔女の私が!?むりむりむりむり絶対むり!!  お妃様は泣く泣くお城に引き返した。  作戦変更。あれは正攻法では連れ戻せない。絶対に無理だ。
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