ラブリー・スノー・ホワイト

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 ***  彼女を連れ戻せたら、多少怪我をさせても構わないと言われている。あの、怪力娘相手では無傷で連れ戻すなどあまりにも無謀だと王様もさすがに理解しているからだろう。  お妃様は魔法で毒薬を生成することにした。摂取したら最後お腹がピーピーになり、猛烈に恥を掻くことになる薬である。これを林檎に沁み込ませ、悶絶した白雪姫を強引に回収してやろうという腹積もりだった。流石の怪力娘も、下痢ピーになったら抵抗できないだろう。実にいい気味である。  自分の顔は白雪姫に知られているため、老婆に変身して突撃することになる。あんな森の奥に、通りすがりの林檎売りのおばあさん、が来るなんて不自然極まりないが、まああの脳みそ筋肉娘は気づきもしないだろう。  老婆に変身したお妃様は、毒をたぷりしみこませた林檎を持って、再び七人の小人の家に突撃したのだった。 「はーい?」  小屋のドアをノックすると、のっそりと白雪姫が顔を出す。寝起きだったのか、ネグリジェの姿のままである。もう十一時なのに寝坊しすぎだろ、と心の中でぼやくお妃様。 「美味しい林檎はいらんかね?」  しゃがれた声で、お妃様は尋ねた。 「うちの家で取れた、美味しい林檎なんだよ。健康にとってもいいんだ。我が家の家計を助けるためにも、買ってくれると嬉しいんだがね。良ければ、最初の一個は無料サービスするよ」 「え、マジで?一個タダでくれるの?」  白雪姫はぱあっと顔を輝かせた。 「ありがと!じゃあ早速貰おうかな!」 ――いやいやいやいやちっとは疑えよ!?大丈夫かこいつ!?  まったく疑いもせず、白雪姫は林檎を手に取る。思惑通りではあるが流石に心配になってしまうお妃様。白雪姫が林檎を齧る、まさにその直前のことだった。 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」 「ひ、ひえええええええ!?」  森の奥から、巨大な黒いクマが出現した。お妃様の二倍以上の背丈があるであろうヒグマである。鋭い爪、鋭い牙、血走った眼。お妃様はびびって腰を抜かしてしまった。 「た、大変!」  白雪姫は林檎を籠に戻すと、お妃様に向かって言った。 「おばあさん、急いで逃げて!この間倒したクマのお父さんが、復讐に来たみたい!ここは正々堂々戦って倒さなくっちゃ」 「え、えええええ」 「ほら、急いで!ここは私に任せて!」 「ええええええええええ!?」  その場で、白雪姫は巨大熊と熾烈なバトルを始めてしまった。巨大熊の蹴りに吹っ飛びつつも、強烈なカウンターパンチを決めて劣性をひっくり返す白雪姫。  はっきり言おう。ついていけない。 ――と、とりあえず逃げよう……!  これ、少年漫画だったっけ、なんて思いながら。お妃様は慌てて林檎を入れた籠を持って逃げ出したのだった。  その際馬と一緒に母の形見のネックレスを忘れていったことに、気が付かないまま。
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