出会い

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・・・なんなのアレ 厄介なことに巻き込まれるのはごめんだ 下で待つとは言われたけれどやっぱり行かない 戸締まりを済ませてビルから出ると、正面に横付けされている車が見えた ドイツ製の高級車はフルスモークで中が見えない そのことも嫌な気分を膨らませるには十分で 距離を保ったまま訝しげに見る私に気付いたのか 脇で立っていた狛犬の一人が さっと後部のドアを開けた 「さぁ乗って」 後部座席から手招きするおじさんに ため息をひとつ吐いてゆっくりと近づく 「私、帰ります。知らない人だし 宿題もあるから・・・」 嫌だけど小さく頭を下げて踵を返そうとした私に 「そうじゃないかと思って ママに電話しておいたよ」 おじさんが携帯電話を振ると同時に ブレザーのポケットに入れた携帯電話が鳴り始めた 取り出した画面に浮かぶのは [祥子ママ] もうひとつため息を吐いて耳に当てた (みよちゃん。アルバイトお疲れ様 青野さんから電話もらったの ビルのオーナーで兄さんも知ってる人だから、ご馳走してもらったら?) 「でも・・・」 断りたいと続けるつもりだったのに、 車の中から伸びてきた手に携帯電話を取られた ・・・は? 「祥子ママ。ご飯を食べたら 送り届けるから、あぁ、分かった」 呆気に取られているうちに 「ほら、邪魔になるから乗って」 真っ暗になった携帯電話を返された ・・・は? もう黙ってはいられない 「行くって決めた訳じゃないし おじさんって強引だよね」 苛立ちから眉間に皺が寄る 「そんな怖い顔をすると可愛い顔が台無し」 そんな私を遇らうように サッと車から降りたおじさんは 「機嫌を直して」と頭を撫でて車に乗り込んだ 「しかし、気が強いね」なんて笑いながら 「おじさんはないよ」と眉を下げた 「十分おじさんですけど、何歳ですか?」 「三十歳」 全然見えないけれど 「ほら、おじさん」 更には干支まで同じことが分かるとおじさんは声を上げて笑った 苛立っていたはずなのにアッサリ車に乗せられていることにも驚いて これが“大人”なのかも、なんて 変に納得してしまった
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