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ふたりの部屋
「将一郎さん、きょうはなにをしますか?」
「大掃除かな。僕が本格的に引っ越してくる前に、掃除したいって園子さん言ってたでしょう? でもまだ日付が変わったばかりだから、昼まで抱き合って眠りましょう」
と言うと、園子は「むふっ」という声を出して、顔を真っ赤にした。
可愛い。うぶな園子、めっちゃ可愛い。
腕のいい外科医で、病院でもばりばり活躍しているらしい園子は、頭はいいけどちょっと空気が読めなくて、四十六歳までなかなか婚期が来なかった。
でもそのおかげで、将一郎の奥さんになった。
ひとがわからないこのひとの良さがわかるのが、将一郎は嬉しい。
将一郎と園子は、マンションに帰りつくと、シャンパンを飲んで抱き合って眠った。きょうが彼らの結婚記念日になるのだ。
このマンションはもう十五年ぐらい前に園子が購入したものだ。
結婚相手はいないけど、将来結婚しても子供ができても困らないように、ファミリータイプのマンションを買ったのだという。
園子の人生設計はその後だいぶ狂ってしまったが、子供はともかく、伴侶は得られた。
ここに一緒に住んで欲しいという園子の願いに将一郎は異論はなかった。
ここは、園子の頭のなかのように、整然として、飾り気がなく、清潔だった。
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