雨の日だけの特別

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 バスに揺られながら、無言で隣り合わせ。最初の頃は沈黙が落ち着かなかったけど、雨のたびに北原くんが隣に座るので、この静かな時間もだんだん慣れてきた。  私は車窓から外を眺めるのが好きだ。変わらない街の景色も、季節ごとに変わる木々や花の色も、車窓から流れていく。ぼーっと見ているだけで、無心になれて落ち着く。  腕にふわっと何かが触れた。ふと隣を見た。北原くんがうとうとしている。頭がカクンカクンと揺れている。時々私の方に寄ってきて、体が当たる。当たると気がついて「ごめん」と言うけど、しばらくするとまたうとうとして揺れている。  雨の日はあまり好きじゃない。でも、この時間は嫌いじゃない。いつの間にか私にとって雨の日は、なんだか特別で待ち遠しくもなった。  隣に座るようになって、北原くんは学校で会うと会釈をしてくれるようになった。それまではただ隣のクラスの男の子だった北原くん。お互いに気がつくこともなく、目を合わすこともなく、すれ違っていた隣のクラスの男の子。顔とか名前ぐらいは知っていたけど。
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