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一つ一つ停留所にバスが停まる。学校がどんどん近くなる。北原くんも目が覚めたようだ。抱えていたリュックからスマホを取り出して何やらつついている。私は隣の北原くんが気になりながらも、車窓からまた街並みを眺める。
北原くんが、鼻をスンスン鳴らしている。ちょっとゴソゴソしだす。私は以前の出来事を思い出し、ハッとする。
「ティッシュいる?」
「あ、今日は持ってきてる。ありがとう」
北原くんはティッシュで鼻を押さえている。ティッシュが少し赤く染まる。
あの日も雨だった。北原くんがバスに乗ってきて、私の横で手すりを持って立っていた。急に北原くんがあたふたし始めて、何事かと見上げたら鼻から血がたらりと伸びていた。
「隣、座っていいよ」
私と目が合うと、北原くんはその時初めて隣に座った。急な出来事で咄嗟に鼻を押さえたため、手が血で汚れていた。私は自分のティッシュを差し出した。
「ごめん、ありがとう」
北原くんは申し訳なさそうにうつむいた。耳まで真っ赤になっていた。
しばらくしてから「大丈夫?」と声をかけた。何度かティッシュを鼻から離して、もう止まっているかどうかを確かめた。
「止まったみたい……。ありがとう。めっちゃ焦った……」
北原くんは鼻血が出やすい体質らしい。
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