雨の日だけの特別

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「今日に限って、うっかりティッシュを忘れていて……。ほんと最悪だ……」  顔を上げて大きくため息をついた。乾いてうまく拭き取れなかった血がまだ少し残るその指を、何度もティッシュで拭き取ろうとしていたが、あっさりと諦めた。色白のその指に、かすれて残る赤い血の跡。 「学校着いたら、手を洗わなくちゃね」 「うん」  あの日から、雨の日には私の隣に座るようになった北原くん。バスでの鼻血は、あの時以来だ。学校では鼻血が出た後に、手を洗いに行くのを見かけたりはしていたけど。  ティッシュを何度か鼻から離したりしていたので、 「止まった?」  と聞いた。 「うん」  鼻を気にしつつ、返事をくれた。 「何度もごめん」 「ううん、気にしてない」  その指はまた鼻血で汚れている。爪の隙間に入ってしまった血を、少し気にしているようだ。 「仕方ないんだけどさ、すごい嫌なんだよね、鼻血。びっくりするでしょ……」 「ううん、二回目だし」 「そっか」 「うん」  どうにかしようとしてもどうにもならないことだから、気にしなくてもいいとは思うけど、当の本人はやっぱり気になるか。 「またティッシュ忘れたら、私の使っていいよ」 「ありがとう」  そしてまた、沈黙が続く。バスが揺れるたび、並んで揺れる私と北原くん。
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