28人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日に限って、うっかりティッシュを忘れていて……。ほんと最悪だ……」
顔を上げて大きくため息をついた。乾いてうまく拭き取れなかった血がまだ少し残るその指を、何度もティッシュで拭き取ろうとしていたが、あっさりと諦めた。色白のその指に、かすれて残る赤い血の跡。
「学校着いたら、手を洗わなくちゃね」
「うん」
あの日から、雨の日には私の隣に座るようになった北原くん。バスでの鼻血は、あの時以来だ。学校では鼻血が出た後に、手を洗いに行くのを見かけたりはしていたけど。
ティッシュを何度か鼻から離したりしていたので、
「止まった?」
と聞いた。
「うん」
鼻を気にしつつ、返事をくれた。
「何度もごめん」
「ううん、気にしてない」
その指はまた鼻血で汚れている。爪の隙間に入ってしまった血を、少し気にしているようだ。
「仕方ないんだけどさ、すごい嫌なんだよね、鼻血。びっくりするでしょ……」
「ううん、二回目だし」
「そっか」
「うん」
どうにかしようとしてもどうにもならないことだから、気にしなくてもいいとは思うけど、当の本人はやっぱり気になるか。
「またティッシュ忘れたら、私の使っていいよ」
「ありがとう」
そしてまた、沈黙が続く。バスが揺れるたび、並んで揺れる私と北原くん。
最初のコメントを投稿しよう!