雨の日だけの特別

　雨の日はあまり好きじゃない。高校へはバスで通学しているんだけど、雨の日は乗客がぐんと増える。バスの通路は人で溢れて車内は混んでいる。なので、降りる時には「すみません、降ります」と言いながら、人をかき分けて降りなければいけない。

　今朝からの大雨で、家からバス停に着く頃には、すでに靴下は濡れていて嫌な感じだ。濡れた傘が狭い座席には邪魔くさい。

「次は、東通り二丁目。東通り二丁目〜」

　単調な電子音の後にドアが開く。いつもは自転車通学だけど、雨の日だけバスに乗ってくる同じ学校の男の子がいる。整理券を取って、辺りを見渡す。私と目が合うと、こっちに向かってくる。

「内田さん、おはよう」

　そしてリュックを前に抱えて、躊躇なく私の隣に座る。

　この人は、北原航希(こうき)くん。隣のクラスの男の子。北原くんも雨で制服が少し濡れている。

「今日の雨すごいね」
「そうだね」

　バスのドアが閉まり、次の停留所に向けて出発する。

　別に私と北原くんは友達……というわけではない。躊躇なく隣に座るけど、何か話すわけでもない。私も北原くんも、社交的ではないからだ。