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「ツバメ君、マニキュア塗って〜!」
マニキュアの入ったお菓子の缶を抱えて、姫華がリビングに飛び込んでくる。
フリルの付いたブラウスとスカート。きっちり同じ高さに結ばれたツインテール。どうやら今日は、『彼』とデートらしい。
「もう姫華の方が上手く塗れるのに、俺で良いの?」
「ツバメ君が良いの!!」
誰もが見惚れる笑顔で、いつものように狭いソファの横に座る。
缶の中にぎっしり入ったマニキュアは、お姫様に選ばれるのを今か今かと待っているように、日差しを受け止めて輝いていた。
「今日はお姫様を希望します!!」
「……かしこまりました。ではお手をどうぞ、お姫様」
「ふふ、お願いします」
重ねられた手は、スラリと長くて細い。それに月日の流れを感じてしまうのは、歳のせいだろうか。
缶の中から取り出した、ピンクとシルバーのラメのマニキュア見て、姫華は嬉しそうに小さく足をばたつかせた。
「ツバメ君、私を世界一素敵なお姫様にしてね!」
「じゃあ姫華は、俺を世界一幸せなツバメにしてね」
開けっ放しの窓から流れてきた暖かい風が頬を撫でる。
もう寒くも痛くもない。
俺たちを脅かす悪役も、幸せになりたいと嘆いていたツバメも、もういない。
お姫様の幸せの踏み台になって、遠くで独り寂しく歌ったツバメじゃない。
俺は、お姫様の幸せを隣で見守りながら、温かい場所で幸せにすごすツバメだ。
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