お姫様の幸せには

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肉に埋もれた顔の中、異様にギラつく目が俺を射る。 「ハンカチをくれて、ボクに笑いかけてくれたじゃないか!! 何でソイツなんだっ!!」 ハンカチをくれたから? 笑いかけてくれたから? それが何だ。それだけでこんな凶行に走るなんてイカれてる。 「もう大丈夫だから、下がってて。君、この子を頼むね」 折れてしまいそうな肩を引き、今にも飛びかかっていきそうだった『彼』に託す。 「姫華ちゃんに触るな! ボクのなのに! 姫華ちゃんはボクが好きだから!」 『あの人』と並ぶ支離滅裂さだ。馬鹿馬鹿しい。 「この子はお前のものじゃないよ」 「うるさいうるさいっ! ボクからミカちゃんも奪ったくせに姫華ちゃんまで奪いやがって!」 真っ赤なカッターが迫る。 「お前ばっかり! お前ばっかりっ!!」 このまま受け止めれば、俺は死ねるだろう。こんな地獄を無駄に生きるより、ここでお姫様を守って死ぬ方がよっぽど有意義な気がして。 でも、赤くなって死ぬのは嫌だ。 何より小さい身体で『姫華』が守ろうとしてくれたのだ。簡単に手放すのは、この子に対する侮辱だろう。 「うわぁああ!!」 振り下ろされるカッターを避け、持っていた鞄を『男』の顔に叩き付ける。姫華の水筒が入っているから、結構なダメージ入ったはずだ。 ……何だろう、酷く身体が軽い。 腕を絶え間なく流れる大嫌いな赤でさえ、姫華を守った証だと思うと誇らしかった。 誰かが通報してくれたのか、駆け付けた警察が『男』を取り押さえる。唾を吐き散らしながら奇声をあげる『男』に近付き、血走った目と真正面から視線を合わせた。 「姫華は俺の大事な妹だ。あの子を傷付けるような真似をしたら俺が許さない」 何故か顔を蒼白にした『男』に背を向け、彼に慰められている姫華の前にしゃがむ。 涙に濡れた瞳が、こんな時でも俺を真っ直ぐに映した。 「姫華、守ってくれてありがとう」 「……っ! お兄ちゃ、ツバメ君も、姫華のこと守ってくれてありがとう!」 飛び込んできた温もりをしっかり抱きとめて、目を閉じた。
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