10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
肉に埋もれた顔の中、異様にギラつく目が俺を射る。
「ハンカチをくれて、ボクに笑いかけてくれたじゃないか!! 何でソイツなんだっ!!」
ハンカチをくれたから? 笑いかけてくれたから? それが何だ。それだけでこんな凶行に走るなんてイカれてる。
「もう大丈夫だから、下がってて。君、この子を頼むね」
折れてしまいそうな肩を引き、今にも飛びかかっていきそうだった『彼』に託す。
「姫華ちゃんに触るな! ボクのなのに! 姫華ちゃんはボクが好きだから!」
『あの人』と並ぶ支離滅裂さだ。馬鹿馬鹿しい。
「この子はお前のものじゃないよ」
「うるさいうるさいっ! ボクからミカちゃんも奪ったくせに姫華ちゃんまで奪いやがって!」
真っ赤なカッターが迫る。
「お前ばっかり! お前ばっかりっ!!」
このまま受け止めれば、俺は死ねるだろう。こんな地獄を無駄に生きるより、ここでお姫様を守って死ぬ方がよっぽど有意義な気がして。
でも、赤くなって死ぬのは嫌だ。
何より小さい身体で『姫華』が守ろうとしてくれたのだ。簡単に手放すのは、この子に対する侮辱だろう。
「うわぁああ!!」
振り下ろされるカッターを避け、持っていた鞄を『男』の顔に叩き付ける。姫華の水筒が入っているから、結構なダメージ入ったはずだ。
……何だろう、酷く身体が軽い。
腕を絶え間なく流れる大嫌いな赤でさえ、姫華を守った証だと思うと誇らしかった。
誰かが通報してくれたのか、駆け付けた警察が『男』を取り押さえる。唾を吐き散らしながら奇声をあげる『男』に近付き、血走った目と真正面から視線を合わせた。
「姫華は俺の大事な妹だ。あの子を傷付けるような真似をしたら俺が許さない」
何故か顔を蒼白にした『男』に背を向け、彼に慰められている姫華の前にしゃがむ。
涙に濡れた瞳が、こんな時でも俺を真っ直ぐに映した。
「姫華、守ってくれてありがとう」
「……っ! お兄ちゃ、ツバメ君も、姫華のこと守ってくれてありがとう!」
飛び込んできた温もりをしっかり抱きとめて、目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!