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皇帝は鄙びた娘を依怙贔屓する②
麗祥国第23代皇帝、英翔。
先帝が思わぬ病で急逝し、僅か14歳で即位して早25年になる。
英翔が即位するにあたり、五花家の筆頭である藤家が宰相を努め、皇后を菫家から求めることによりまだ幼い皇帝をつつがなく支えた。
円滑な即位は国の安定に直結し、現在に至っている。
五花家は常に皇帝に忠誠を誓う術を刷り込まれているかのようだ。
400年も変わらぬ忠義は時に危うい均衡を迫られながらも、持ち堪えている。
それ自体が奇跡と言えよう。
「陛下、こちらをどうぞ」
宰相がとある巻物を英翔に差し出した。
英翔は中をさらりと一瞥し、
「多いな。見る気がしない」
と呟く。
「国中の部族の若い娘たちの情報が記されているので、当然でしょう」
英翔には今年20歳になる息子が居る。亡き皇后との間に成した息子はこの1人のみ。
名を紫桜と言う。
我が子ながら、実に素晴らしい息子に育ってくれた。政務に勤しむあまり、なかなか目をかけてやれなかったことが悔やまれるが、自慢の息子には変わりない。
いささか真面目すぎるきらいはあるものの、行き届いた帝王学は次期皇帝に申し分ないだろう。
そろそろ見合った女性と婚姻し、更に麗祥国の地盤を固めてもらいたい。
本人にその気がなく、ここまで延ばし延ばしになった皇族としてはやや遅めの婚姻話。
それを五花家からせっつかれるように奏上されては、英翔も知らぬ存ぜぬとはいかなかった。
本来ならば皇后を交えて話し合いたいところだが、英翔の皇后は紫桜の妹を出産の折、産後の肥立ちが思わしくなく幼子を残してこの世を去った。紫桜はまだ3つだった。
その後、側室との間に子は成したものの、皇后の地位は空席のままだ。
幸い政局は安定している。あえて皇后を新たに立てることもないだろう。
「正妃候補を5人ほど見繕っておきました。いずれも将来の皇后に相応しい教育を受けた姫ばかりです」
代替わりしてまだ新しい宰相、藤 啓雅は先の宰相の息子で、元は英翔の侍従だった。
歳が近い2人は兄弟のように育ち、啓雅の父親が老齢により宰相からの退官を求めた際、必然的に後釜には啓雅が収まった。
控えめでありながら冷静に物事を判断し、政治に明るく、時に暴走しがちな英翔を諌める事が出来る数少ない人物は宰相となるには最適と、その代替わりも円滑だったという。
そんな啓雅がそつなく取りまとめた各部族の年頃の姫の情報はその量も半端なく、ため息しか出てこない。
「慣例通り、娘が居る部族からは1人ずつ皇宮に上がらせます。そこから教育を施し、2年ほどかけて正妃と側室を選びます。当然ですが、正妃は1人。側室は何人でも構いません。都度試験を行い、見込みがないと判断された娘は各部族に送り返す。よろしいですね」
分かりきった説明を受けながら、英翔は分厚い巻物に書かれた名前を流すように確認して行く。
おもむろに筆を取った。
正妃候補の1人の名前を塗りつぶし、横に新たに名を付け加える。
『蔡族 凛珠』
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