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「コレ全部チョコなの!?」
机上にびっしりと並べた箱や袋を見るなり、瑠美が目を丸くする。帰宅早々に何だ、その呆れたような言い草は。
「っていうか志朗ちゃん、チョコアレルギーじゃなかったっけ」
「我慢してただけだ、この10年ずっとな」
すると今度はこれまでのバレンタインがどうのと愚痴り始めたので、犇めく宝の山から記念すべき1つめを選ぶシンキングタイムを利用して、俺は彼女に経緯を説明した。
かねてから小説家志望だった俺が初めて賞を獲ったのは高2の時。文芸誌の新人賞だった。
以降、かなり意気込んで書き続けたが、鳴かず飛ばずで迎えた二十歳の春。環境を変えるため上京を決意した俺は、ある願掛けをした。
「〝一人前の作家になるまでチョコは食べません〟ってさ」
3つまで絞った候補を手前に並べ直す横で、彼女が感嘆する。
「今年の書店大賞と直川賞、W受賞だもんね。一人前の作家になったってわけだ?」
「そういうこと」
「じゃあ私からも良いものあげるよ!」
そう言って鞄を漁ったかと思えば、デカいロリポップのようなものが差し出された。
「うわっ、コレ渋谷店限定のホットチョコスティックじゃん!今日出たばっかのやつ!」
「よく知ってるねー。差し入れの貰ってきたんだー」
「サンキュー!やっぱモデルの現場ってすげぇなぁ」
ダークホースの出現によって最終候補たちは保留となり、俺は意気揚々とチョコを溶かすためのミルクを温め始めた。
瑠美が階段を踏み外して足を折ったのは、その3日後のことだった。
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