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「それで、瑠美ちゃんは?」
括った雑誌の束を抱えて、板野が訊く。
「地元に帰ってる。回復するまで実家の世話になるって」
「この高層マンションじゃ、何かと勝手悪いもんなぁ。…にしても、ひとりになって1週間でこの惨状かよ」
「すまん…」
板野は窓からの景色を眺めながら深く頷いた後、ようやく足の踏み場が現れたリビングを見回して苦笑した。出張のついでにと受賞祝いに立ち寄ってくれたのに、掃除を手伝わせる羽目になってしまったのは、俺の不徳の致すところと言う他ない。
「人気モデルにこんな雑用させてたのかー?」と茶化しつつも手際よく片付けてくれる辺りは流石だ。持つべきものは綺麗好きで世話焼きの同級生である。
「でも、あんな願掛けにご利益があったとはなぁ」
「何だよー、チョコ我慢すんの大変だったんだぞ?」
「いや、そうじゃなくてさ」
雑誌の束を部屋の隅に寄せ、選別したゴミを袋に収めていきながら懐かしむ口振りが切り出した。
「今だから言うけど、正直思ってたんだよ。路肩の古い祠なんかに手を合わせて、どうにかなんのかよって」
「あの祠に出会ったことが、幸運の始まりだったのかもな」
「ははっ、たまたま見つけただけだろ」
板野の運転で空港に向かう道すがら、田んぼだらけの景色の中に偶然見かけた苔だらけの祠。神社に寄り損ねた苦肉の策を、旧友はあの日と同じように笑い飛ばした。
「あの瑠美ちゃんと同棲ってだけでも驚きなのに、ベストセラーに大賞に…小説よりも奇なりってやつだよ、ホント」
「お前も来てればなぁ、同窓会」
「そこらの土建屋にマドンナは不相応さ」
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