お遍路の理由(旅ノートに書いたもの備忘録)

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お遍路の理由(旅ノートに書いたもの備忘録)

お遍路へ来た理由を一言で現すなら「自分のため」「自己満足」でしょう。 19歳の12月に、父が居なくなりました。ある朝いつものように家を出て、帰ってきませんでした。すぐに警察に届け出をしましたが、父が帰ってこないまま新年を迎えます。 いつものように祖母と母とお正月の準備をして、父がお腹を空かせて帰ってきても良いようにと,努めて平静を装いました。 誰も口には出さないものの もう父が生きていない、そんな気がしていたのです。 2月生まれの父が間も無く49歳の誕生日という時に、警察から電話がありました。 父が見つかったと言うことで母と私とでまず警察に行きました。 打ち付けられた棺とその横にわずかな布、ボロボロになった財布。 棺の中は、父の財布を盗んだ人かもしれない,財布の中の免許証が本人のものかわからないじゃないかと棺を開けようとしました。 顔を見たいと思ったのです。 「生きてたときのお父さんだけを覚えていてください」 棺は打ち付けられたまま、母は父の下着で本人と確認しました。 釣りに行き,海に落ちたのが先か心臓発作が先かわからないままだけど、死因は心不全でした。 衣類はボロ布となり下着でしか判断できない損傷でした。 父の四十九日の法要を終えた頃,祖母が「お遍路に行きたい」と言いました。 私は祖母まで居なくなるようで「大人になったら一緒に行くから」そう伝え諦めてもらいました。 祖母が死に場所を探しているきがして,父も祖母も失うようで怖かったのです。 10代だった私は,父の死が悲しくショックではあったものの,好きだった釣りの時に亡くなって自由に生きて,自由に死んだと思っていました。10代の私からすると48歳の父は,やりたいことを全てやった、やり尽くしたと思っていたのです。 祖母はその後1度もお遍路に行きたいと言いませんでした。私はそんな約束も話したことも忘れていました。 10代20代と祖母といろいろ出かけたり旅行もしたのに、忘れたままでした。 そして去年102歳で祖母が亡くなりました。小さくなる祖母を何度も見舞い,声をかけても祖母は何も言わず、私もお遍路のことなど忘れたままお別れをしました。 葬儀を終えて間も無く1周忌 私は45歳になりました。 父が亡くなった年が近づくたびに、10代の頃に思っていた父が満足して死んだ,悔いなく死んだと思っていたことが間違いだったと思うのです。 今私はやりたいこと、楽しいことが多くて,満足などしていません。 どんなに父が無念で悔しかったかと思うのです。 娘の嫁入りは見たくなかったかもしれませんが、成人した娘や息子と酒を飲んだり,孫の顔が見たかっただろうと思うのです。 私もまた人生の帰路に立つとき、父だったらどんなアドバイスをくれただろうと思い,父に会いたくなるのです。 小言でも良いから,話がしたい,夢でも良いから会いたいと思うのです。 45歳は人生の折り返しの年のように思います。 やり残すことがないように,今日を大切にしようと思うようになりました。 そんなある日突然思い出したのです。 祖母に「大人になったら一緒に行く」そう伝え守らなかったお遍路の約束を思い出しました。 誰も私を責めません。 10代の「大人になったら」なんて言葉も、忘れてしまったことも、仕方がなかったと言います。 父が突然亡くなって、生きることに必死だった。 楽しいことも多い10代で、父の死も祖母との約束も過去になってしまったのです 大切にされた、こんなにも愛されていたのに祖母がただ一つ願った「お遍路」を私は忘れていました。 もう祖母は亡くなって、詫びることもできません。 自分の罪悪感から私は今お遍路に来ています。 遍路道を歩きながら、祖母を思います。寒い日に銀紙に包まれた熱々の芋を「カイロの代わりに持っていけ。腹が減ったらおやつ」とポケットに芋を入れてくれた何気ない日々を思い出すのです。 もし20代の私と70代の祖母がお遍路を歩いたとして、喧嘩になって互いに幸せにならなかったと思う気もすれば、喧嘩をしても仲直りしただろうと思いもし、ここは歩けたかな?と思う険しい遍路道もありました。 祖母との約束を果たしに来たとも言えますし,その方が聞こえはいいでしょう。 でも私は罪悪感から巡っています。 ここまでお読みいただきありがとうございます 心配しないでください 暗い旅路ではありません。 楽しくお遍路をしながら、祖母を想い,父を想い、日々を大切にしたいと歩いています。 これは私の慚愧に耐えない心と想いを記すことで、また1つ前進するために書きました。 ここに書く内容ではないとは思いますが、これも一期一会と思っていただけたら幸いです。 皆様の遍路道と交わることはありませんが、良きお遍路、良き旅路になりますようお祈り申し上げます。
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