1話「栞。」

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1話「栞。」

「なぁなぁ、おばぁちゃん!私にも栞作ってや!!」 「ええよ、また来てくれる時まで待てるかい?」 「うん!!!めっちゃ待つ!ありがとぉ、おばぁちゃんっ!!」 3ヶ月後、おばぁちゃんは帰らぬ人となった。 亡くなる1ヶ月前に事故で入院しており、日に日に弱り亡くなった。 おばぁちゃんの遺品の整理をしていたら私宛の手紙が見つかった。 それはそれは弱々しくも綺麗な字で、こう書かれていた。 「 かりんへ  おばぁちゃん、かりんに栞持って行けんくてごめんね。  事故に()った日、おばぁちゃんかりんの栞の入った巾着うっかり本屋   さんに忘れてもうてなぁ。  急いで取り行こう思って焦ってたら病院行きなっとったわい。  それから忘れた本屋に一回出向いたんやが無い言われてもうたんや。  また作ろう思ったんやが、かりんにええ花はもう咲いてなくてな。  かりんにはどうしてもその花が良かったんや。    年寄の変な意地で欲しがってた栞、渡せんで ごめんね。                          おばぁちゃんより 」 当時まだ幼かった私はあまり意味を理解していなかった。 もう少し大きくなった頃に読み返すと、悲しくも腹立たしい気持ちでいっぱいになり、涙となって溢れた。 おばぁちゃんが悪い訳じゃないのに謝るので、それが悲しく腹立たしかったのだ。 それだけじゃない感情も沢山沢山あったと思う。 読み返して落ち着いた頃に私はこう思った。 「おばぁちゃんの栞、今何処(どこ)にあるんだろうか」                         と。 私は思ったらすぐ行動に移す考え無しなのですぐに探す支度をした。 ちょうど春休みだったので棚ぼただと思った。 親には栞を探しに行くとかしばらく帰らないなど適当に置き手紙を書いておいた。 まず向かったのはおばぁちゃんが巾着を忘れてった本屋。 母がおばぁちゃんがよく行ってて近所にもここしか無いという本屋。 道のりは暖かく、咲いている花やまだ(つぼみ)のものがある。 そして気持ちの良い天気だ。 そんな事思っている内に本屋に()いた。 戸を引きのれんをくぐった。 本って感じの匂いがする、不思議な感覚だ。 店には隙間が無いんじゃないかというくらい本が沢山あった。 見たところ、50年代から今の本まで揃えてあるよう。 「こんにちは」 「こんにちは、何かお探しで?」 店主は70代程のお爺さんで物腰の柔らかい印象だ。 「あの、探している物は本ではないんです。」 「ほぅ、なにでございましょうか?」 「何年も前なのでぼんやりとだけで良いんです!  黄色と赤の千鳥文に底には紺の布、それで手首にかけられるくらいの大きさ      の巾着で…。」 「あぁ、覚えていますよ。  一人の女性がそれを探してここを訪ねて来た事、よぉぅく覚えています。  10年経つか経たないかくらいの夏の時ですね。  その女性が汗を拭きながら 「あの、赤と黄色の千鳥文の巾着、ありませんでしたか?」  って。  申し訳ない事に私はその巾着を交番へ届けてしまってました。  だから『誠に申し訳ございません、その巾着は私が交番へ届けてしまった』  と言いました。  彼女はにっこりと『貴方は正しい選択をしたのですよ、謝ることはなぁんに  もありません。』と笑いながら言いました。  それから少し話をしました。  その巾着は何処の交番にだとか、お孫さんの栞の事だとか。」 「!!」 「栞の話はそれはそれは楽しそうに話していましたよ。  余程お孫さんが大好きなんでしょうね。  今更ではあるんですが、どうしてその巾着をお探しになられて?」 「おばぁちゃんの巾着なんです。  私の為におばぁちゃんは栞を作ってくれました。  その栞が今何処にあるんだろうって思って今探しているんです。」 「お孫さんとは貴方でしたか! 彼女は今、元気ですか?」 「おばぁちゃんは9年前に亡くなりました。」 「失礼、気が回らなく。  辛いことを口にさせてしまいましたね、お悔やみ申し上げます。」   店主の謝ってくるその姿にこっちまで辛くなる。 とても悲しそう。 「いえ、知らなかったんですからしょうがないですよ。  巾着の事ありがとうございました!見つかったら栞持ってまた来ますね。」 落ち着く店の雰囲気が惜しかったものの、私は店を出た。 交番はここから少し離れた所にある。 誤字脱字があればご指摘お願いします。 ここまで読んでくださりありがとうございます。 次回、交番からです。  
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