2話「交番。」

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2話「交番。」

本屋からおよそ700m先に交番がある。 運動をあまりしない私は、歩き動いて上がる体温とこの暖かく丁度良かったはずの気温で脂汗(あぶらあせ)をかいていた。 「……暑い、、、。」 道中に階段があるのだが、その階段に野良猫が日向ぼっこをしている。 (気持ちよさそうにうとうとしている君たちを見ていると羨ましくなる    よ、、、。) 「…うわ私お茶持ってきてないじゃん、、。(チラッ)」 汗を拭い少しのぼせそうになりながらも交番近くの駄菓子屋を目にした。 木製の引き戸を私は引いた。 「いらっしゃい」 「こんにちは。……(ひょいひょい)あっ勘定(かんじょう)お願いします、、。」 「あら、ふふっこんなに〜 まいどあり〜」 穏やかなお婆さんだった、でもやっぱ少し恥ずかしかった。 ラムネ、水、アクエリアスをそれぞれ一本ずつ買ったが、必要とはいえ恥ずかしかった。 「(ごくごくごくごく‥)っは、生き返る。水分大事感謝。」 勢いよく私は500ml容器の水の半分程を飲んだ。 水分補給って大事、まじ大事。 喉も(うるお)ったところで私は交番の中を誰か居ないかと(のぞ)いた。 『パチッ』 「あっ」 交番の中の警察官と目が合ってしまった。 私は咄嗟(とっさ)に目を逸らしたので怪しまれているに違いない。 これじゃ不審者じゃあないか!! 中から私に向かっての足音がどんどん近づいてくる、ハラハラする。 ガタガタガラッ 「…あっあの、私決して怪しい者ではっ!」 「(じーっ)…暑いでしょう、中入りますか?」 「あっ…はい、お邪魔します。」 40代くらいのガッチリしたおっちゃんだ、ちょっと安心。 カチャカチャ 「はいどうぞ。」 「ありがとうございます。」 冷たい緑茶を出してくれた、美味しい。 「それで、どうされたんですか。」 「(カチャ)あの、何年も前のここに届けられた落とし物ってなんか見つかっ   たり、あったりしませんか?」 「うーん、そうですねぇ。  ここ数ヶ月のはありますが年単位の物の落とし物は県に送られるか、拾った  人のとこへ行くんですよ。  所有権(しょゆうけん)、っていうのが関係しててね、少しややこしいと思    うから省くんだけど、3ヶ月以内に持ち主が現れなかった場合は県の物にな  って処分されるか、拾った人に引き取られるかのどちらかなんですよ。  まぁ物にもよるけど、大体こんな感じです。  引取期間って言うのがあって、拾った人は2ヶ月程しか所有出来ないんです   けどね。その期間が終われば県の物になります。」 「……」 「…何を落としたんですか?」 「あ…落としたのは私じゃなくおばぁちゃんなんです。  それでその落としたというか忘れ物は黄色と赤の千鳥文に、底には紺の布が  ある巾着なんです。  大きさは手首にかけられるくらいで。」 「うーん…なんか見たことあるなぁ。  あっ!それ中に栞入ってませんでした?」 「!!入ってました!どうして、、。」 「10年くらい前だったかな。  その時も僕がここを担当していてね、その巾着を拾った青年が聞いてきたん  だよ。 『この巾着、持ち主現れなかったら私が頂いても良いのでしょうか』って。  なんかねぇ、その青年は中の栞にすごく惹かれたらしく。  でも落とし物で、誰かの大切な物だった時に処分されてたらすごく悲しいだ  ろうから、もし持ち主が現れるまで私が大切に持っていたいって言ってそれ  はもう必死にお願いしてきたさ。  そして3ヶ月経った頃、持ち主が現れなかったから栞と共に巾着はその青年  の元へ行きました。」 ん、おかしいな。 本屋のお爺さんが届けたはずじゃ…。 「あの、どうしてその人は巾着まで持って行ったんですか。」 私は少し腹立っていた。 知らない人におばぁちゃんが私の為に作ってくれた栞だけでなく、おばぁちゃ んのお気に入りだった巾着まで持って行ったからだ。 お門違いなのは分かっていたが、巾着まで…と思ってしまった。   「目印に、って持って行ったらしい。  あまり見ない巾着だったから目印に持って行ったんだろう。」 「その人は今何処に居るんですか?  何処らへんに居ると思いますか?」 「ここ滋賀ではなく、静岡だったはず。  引き取る際の必要な書類にそう書いてあったと思います。  結構遠くから来たな、って印象に残っているので間違いないかと。」 (この人記憶力良いなぁ、、、。) 「ありがとうございます、一か八かで行ってみます!!」 話が終わる頃にはもうお茶は飲み干していた。 ガタガラッ 立て付けの悪そうな鉄の引き戸だ。 「ありがとうございました。お茶、美味しかったです。」 「それは良かった、気をつけるんだよ。」 「はい!では(お辞儀)。」 後ろをチラッと見たが、おっちゃんは私の姿が見えなくなるまで見ていた。 だいぶ心配されてるんだと感じた。 照れ臭いけどちょっと嬉しい。 見つかったらおっちゃんにも見せに行こう。 (静岡かぁ、、、お金足りるかな。  日雇いバイトしながら進もう、うんそうしよう。) バイトでそこそこ貯めてきたつもりだったけど足りるか心配になったよね。 私はバス停へと足を進めた。 誤字脱字があればご指摘お願いします。 ここまで読んでくださりありがとうございます。 次回、バス停からです。      
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