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セスという男
「セス!起きろ。早くしないと売り切れるぞ」
頭を悪友に華麗に叩かれ、セスは覚醒すると同時に走り出す。
「ってぇ~。もう少し労わって起こせないのか?」
「学食の特定が品切れてもいいならな」
白い歯をのぞかせて、ケビンは片目を閉じてみせた。
高校生男子にとって、昼飯は死活問題の一つだ。
中でも本日の日替わり特別定食は絶大な人気を誇る
『病み付きスペアリブ』
――活字にすると微妙だよな……。
「こらっ!そこ、廊下は走らないっ」
二人で競うように廊下を駆けていると、気合の入った声に呼び止められる。
「「げっ!エリー」」
すらりとした長い手足に、男ならついつい目を奪われてしまう豊満な胸元。
燃えるような赤い髪を無造作に一括りに束ね、白いシャツに紺のジャケットという有体の服装だというのに、うっかり足を止めるほどに艶っぽい。
高校教師としてはいささか不適切な真っ赤なルージュが、似合いすぎているという理由で文句を言われないのはこの人くらいだろう。
「ん?先生はどうした?先生は!」
肩眉をピクリと上げ、耳に手を当て嫌味ったらしい仕草をする。
「「エリー……先生」」
「ん、君たち、エネルギーが有り余っているみたいだね」
にっこりと凄みのある笑顔にいい思い出はない。
「いや……俺たち腹ペコで余るどころか、燃料切れ寸前っす」
さりげなく静かに方向転換を試みるが、案の定首根っこを掴まれた。
ぐぇっ。
「セ、セス。お前の犠牲は無駄にはしな――うぉっ!!!」
エリーの長い足が、隙を突いて横をすり抜けようとするケビンを引っ掛ける。
「や~、男手欲しかったのよ。助かっちゃった」
「って、なんで俺らが……」
「ん?君らだからでしょう?」
美女の笑みに迫力が増した。
「あら、ただとは言わないわよ。はい」
手渡されたのは素早く手軽にエネルギーチャージという携帯食。
――マジか……。
やみつきスペアリブが諦めの境地にあることを知る。
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