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部活から教室に戻ってきたケビンは、珍しい顔が居残っていることを意外に思う。
セスはその持て余したような運動能力を部活動に捧げる気は無いようで、大抵は家業である農地や牧畜の手伝いに勤しんでいた。
至って庶民派に見えるが、セスの一族は広大な土地を保有する大地主だ。
山の一つや二つを裕に保有しているというから驚きだった。
「ん、ケビンお疲れ。今日はちょっとね……」
セスは何をするでもなし、物憂げな表情で窓の外を見ていた。
「はは~ん。誰か待ってんのか?もしか、マイ?」
エリザとマイは女子の花型スポーツの一つ、バスケ部だ。
ただ、選手のエリザとは違って、マイは女子マネ。
「へ?なんで?」
その心底わからないって顔にケビンは内心で舌打ちする。
――ちっ、かすりもしていないのかよ……。
『マイはお前のことが好きだっていい加減気づけよな』と、バラしかけた口をケビンは慌てて噤んだ。
マイ自身が告げていないことを勝手に漏らすのは不味いことだ。
それに、セスに落ちている女は何もマイだけじゃあない。
「なんだ、違うのかよ。じゃ、誰なんだよ?」
――この激鈍い男は、何か知らんが女にやたらモテる。
俺よかモテる。
俺よりちびのくせになっ!!!
「ははっ。そんなんじゃあないよ」
セスはそれ以上話す気はないみたいで、また窓の外に目を向けた。
教室の窓からの灯は、もうすっかり日の入りを果たした真っ暗な運動場を照らし出している。今は練習後にくっちゃべっていた運動部の連中が、まばらに引き上げようとしているだけだった。
ケビンはらしくないセスのアンニュイな雰囲気に、眉根を寄せる。
けれど深く追求することなく、セスの頭を豪快に掻き混ぜることで紛らわせた。
「な、何っ???いきなし!?」
狼狽えるセスにケビンはニヤリと笑んだ。
「愛情表現なんだろ?有難く受け取れよ」
そして、気が済んだかのように、『じゃあな』と空手を振って教室を出た。
ケビンは、人の括りに無いセスさえも認める気のいい奴。
そしてセスがこの世界に溶け込んでいる理由でもあった。
セスはその背を見送り、笑みを浮かべていた。
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