魔物と人と

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 さて、近頃モフモフの中で目覚めることが常態化したマナである。 ――ええぇっと、これってどういう状況だったかしら? たっぷり眠って気分は上々だったものの、こうなった状況を今一つ呑み込めていなかった。 確か、崖から落ちてエネルギーを使い果たした。 その後は眠くてうろ覚えだが、セスが助け出してくれたことだけは、はっきりと覚えていた。 セスがマナの唯一無二であると実感した出来事でもあったので、当然だった。 「……セス」 思わず名を口にした。 途端、キュゥウゥと心を締め付ける想いは純粋な喜びだ。 ぐりぐりとモフモフに顔を埋めて、突如湧き出た想いの猛りにマナは身悶えた。 『くはっ、そこダメ……』 銀狼(セス)は思わず身を捩った。 「ぶふっ、ひゃははは」 そしてマナを抱え込んだまま、笑い転げて人型に戻った。 どうやら擽ったい箇所だったらしい。 「おはよう、セス」 屈託ない甘えた笑みに、セスはなんとも言えない気持ちになった。 そうと言うのもマナが目覚めるまでのこの数日、セスは心配で堪らなかったのだ。 「――ったく……おそようだよ、マナ」 その形の良い鼻をつまんで、セスはお説教モードに入った。 「限界だったならそう言ってくれないと、分からないじゃあないか」 マナは眠りこけて、湯船で溺れてしまったのだ。 そうだったとは知らず、マナは目を瞬いた。 「私、溺れていたの?」 「……多分」 確かに記憶はところどころ途切れている。 「迷惑かけて――」 「迷惑じゃあない。心配をかけたんだっ」 顔を痛ましげに歪めるセスは、怒っているのじゃあない、悲しんでいるのだと知る。 「ごめ……」 「許さないからな」 心配を掛けたら? 謝ることさえ許されなかったと、マナは肩を落とす。 「次、甘えてこなかったら絶対に許さない」 セスはマナをギュウと抱き締め、否が応でも約束させたのだった。
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