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里の男たちが集まって、二メートルにもなる雪を掻き揚げて掘り起こしているのはキャベツだった。
かなりの重労働の筈なのだが、サクサクと綿でも運ぶような勢いで雪を担ぎ上げていく。ショベルカーなんて使わず、誰もが素手だ。
その豪快さに圧倒されながらも、マナは声を掛ける。
「おはようございます」
聞こえなかったように、皆は視線を逸らした。
完全に余所者扱い、心は挫けそうになるものの、ここで下を向けば思うツボだ。
引いてはならないと、マナは腹に力を籠める。
顔に能天気を張り付けて動じていないフリだ。
ここの農地はウルバン家が所有しているものだが、里の全ての農地管理は農業組合に委ねられている。
そうすることで遊ばせてしまう農地が出ないようにしているのだ。
そして、その売り上げの全ては働きに応じて振り分けられるのだが、たとえ働き手がなくとも、所有権があれば相応に配当されるという仕組みだった。
その農業組合の現代表者はヤマラだ。
代表者は誰より農業を知る知識人が投票によって選ばれる。
ヤマラは外からの人間、そのヤマラが選ばれることは、いろんな意味で偉業だと、セスは凄く嬉しそうに、そして、誇らしげにマナに語っていた。
そして、そのことは引き籠り癖のあるマナを奮い立たせている。
誰とも関わらないでいることを良しとして来たマナだが、少しずつそんな自分を変えようとしているのだ。
「皆さん、お疲れ様です」
チラッと向けられる幾つかの視線。
マナの勇気に応えることは、里の足並みを乱すことだとしているのか、男たちは黙したまま、作業に没頭するフリをした。
そして、マナもフリをし続ける。
そんな微妙な空気の中でも、遠く、豪快に手を振ってくる強者がいた。
「おう、お疲れさん」
ベンだ。
分け隔ての無いその笑みにマナは救われた。
心からの笑みで手を振り返す。
「もう朝摘みは終わったのか?」
ベンの手の内にあれば、丸々と太ったキャベツが小さく見えた。
「はい、どれも宝石みたいに綺麗な苺でしたよ」
その仕事ぶりを称えて、マナは応じた。
「朝摘み苺ってネーミング付けてマルシェに出荷すると、良い値が付くんだ」
野菜は鮮度が命、付加価値が付けば客足は高値だろうと衰えない。
「セスならあっちの畑にいたぞ」
ベンに促され、マナは仕事の邪魔にならないようにそちらに向かった。
「健気だねぇ。ったく、そうは思わねぇのかよ?」
ベンは里の男たちに向かって目を眇めていた。
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