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序章~事実は小説より奇なり
世界的に誰もが知るドラキュラ伯爵。
人の生き血を啜ることでお馴染みの小説の彼は、ヴァンパイアと呼ばれる種族であり、物語だけの存在だと信じられているが、実はそうではない。
彼のモデルとなったヴァンパイアは実在する。
世に出ているいくつものヴアンパイアの物語は、真実を織り交ぜ語られることで、彼らの存在を認知させると同時にカムフラージュもしていた。
己の存在を隠さなければならないのに、認知させたい。
そんな自己顕示欲の強い生態は、彼らがかつては人間だった証なのかもしれない。
彼らは不変であることを好み、居住区を荒らされることを拒む傾向にある。
それ故に、物語の本場であり彼らの本居住区でもあるルーマニアを始めとした随所では、現代にまで中世の特色が色濃く残されていた。それらこそが彼らが存在する痕跡であり、縄張りを主張している箇所とも言えるのだ。
小説のおかげでトランシルヴァニア地方はヴァンパイアの聖域と認識している人間もいるのではないだろうか?
それは、それほどに特筆すべき力のあるヴァンパイアがいる証であり、トランシルヴァニア地方、モルダヴィア地方、ワラキア地方、ドブロジャ地方は、長い年月の末に人の記憶にそれと残ってはいないが、元々縄張りを主張する彼らの名に由来しているものだ。
同種の中でも、いつしか彼らはヴァンパイアの祖として崇められる立場となり、人間のように規律を定めることにした。そして、それを犯した者は彼らの手により制裁が加えられる。
それだけの力を彼らは長きにわたり保持して来たのだ。
ヴァンパイアの掟は単純明快である。
第一条 人間にその存在を知られてはならない
第二条 人間の幼子をヴァンパイアにしてはならない
第三条 規律を乱した被転生者の責は転生者にも及ぶ。
規律を乱す者はその存在をもって償わなければならない。
ここで言う存在とは人間にとっての命のことだ。
つまり、彼らにも死はあった。
ヴァンパイアは人よりもはるかに強靭であり、不老ではあるが、神は彼らから安息を取り上げはしなかったのだ。
そして人に紛れているのは何もヴァンパイアだけではない。
世界はいつだって不思議に満ちている。
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