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終電の駅で
友人につきあって遅くなったその夜、和子はじめて終電に乗った。
車内には意外と乗客がいたが、和子の降車駅で降りたのは、和子だけだった。
「寒っ!」
ホームに出たとたん、寒風が吹き付けた。
これは、明日は雪になるかも知れない。
マフラーに顔を埋めながら階段に向かって歩いていくと、視界に奇妙な物があった。
ベンチの上で、何か小さな物が動いている。
「え、なに?」
冷たい風に目を半分閉じながら近づいていくと、それは太鼓を持ったお猿のオモチャだった。
ネジ巻き式らしい。
紅白の縞々のトンガリ帽を被って、タンタンタンタンと左右の手を交互に上げ下げして、赤い太鼓を叩いている。
「……さわったら爆発するとか、ないよね?」
しばらく観察した和子は、結局判断つきかねて、そのまま通りすぎ、改札の駅員に不審物報告をするにとどめた。
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