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 インターフォンが鳴る前に、何か予感めいたものを感じ、紅林啓は玄関扉を開けた。まさに今、インターフォンを鳴らそうとしていた彼が、ギョッと目を剥き、そして悲痛に眉根を寄せ俯いた。啓は磁力に引かれるように彼を抱き寄せ、部屋に連れ込んだ。彼は当時のような弱々しさで、啓の導きになされるまま、ベッドに倒れ込んだ。シャツを剥いで素肌を露わにしても、彼は抵抗しない。力無い目はそっぽを向いている。それが余計に啓の胸を締め付けた。自暴自棄になるような何かをされたのだ。けれど彼はここへきた。彼のわずかな理性は俺を選んだ。 「きみは俺に、何をされたいの?」  言いながら、胸の突起を軽く舐めた。息を詰めるような声が落ちる。抵抗か、彼の手が頭を押さえつけてくる。啓は構わず突起を愛撫した。 「あっ……やめっ」 「あの電話は何? 仕事帰りだろう。職場で何をされたの? 相手は上司? それとも同僚?」  怒りが沸々と湧いてきた。どうしていつもいつもっ……簡単に乱暴されるのか。勢いよくズボンと下着を脱がすと、下着は血で汚れていた。優しくしなければと思うのに、つい、口調が尖る。 「また酷いことされたんだね。それで俺を頼ってここへ来た。きみは変わらないね。何も変わらない……いつもっ、俺にはこんな姿ばかり見せつけるっ……」 「うっ……ああっ」  指をグイッと押し込むと、血の匂いがふわりと鼻腔をくすぐった。彼の顔がぐしゃっと歪む。それでもやめない。いいところを執拗に責め立てる。耐え難い快感に彼は身をよじるが、それも片方の手で止めた。 「ひっ……んくっ」 「きみのこと、調べさせてもらったよ。事故に遭ったんだってね。それで記憶を失った……同情するよ。せっかく忘れられたのに、病院経由であのことを知る羽目になった。それでこれだ。どうせ、きみの過去を知った同僚にやられたんだろう」  奥へ指を伸ばすと、硬いものに当たった。中で二本の指を広げ、ズイッとそれを掴む。乱暴だが、そこまで気が回らなかった。こんな状態でここへ来た彼が悪いのだ。彼はのたうち、金切り声で喘いだ。タラタラと血が垂れる。真っ赤な指先が掴んでいたのは、単三電池だった。思わず乾いた笑いが出た。 「ひどい……ひどいね。ひどいよ……本当にきみは」  何に対してひどいのか、わからない。啓は呪文のように「ひどい」と繰り返し、泣きじゃくる愛司のそこに隆起したペニスをねじ込んだ。 「あっ……あ、ひっ」  以前と同じ反応なのが切ない。死にかけの草食動物に喰らい付くように、啓は暴力的に、それでいて快感を与えることを忘れずに、彼がまた自分に夢中になるように、自己中の極みみたいなピストンを彼が失神するまで続けた。 「ケイ……」  ハッと彼を見ると、目元と頬に涙の跡を残しながら、彼はぐったり眠っていた。道具のように扱った彼の身体をそろりと撫でると、瞼がゆっくりと開いた。 「ケイ」  力ない目で見られ、まさかと思い、「何か思い出した?」聞いてみた。 「いや」  彼はぼんやりと答えた。 「でもなんだか、あんたの名前を呼ぶと切ない気持ちになる」  やりすぎたか、彼の顔は赤く、呼吸も乱れている。 「ケイ……不思議だ。何も思い出せてないのに、苦しくてたまらない」  両目からダラダラと涙が溢れ、啓はたまらずそれを拭い、その手で額を触った。高温に驚き、「濡れたタオルを持ってくるよ」とその場を離れようとした時だ。 「いかないで」  行為中の抵抗とは比べ物にならない力で、腕を掴まれた。 「あんたはひどい……あんたは俺を傷つけた。それだけはわかる」 「そうだね。さっきはやりすぎた」  彼はゆるゆると首を振った。 「あんたは俺をその気にさせて、捨てたんだ……」 「……そうだね」  思い出してはなさそうだが、必然とその事実に辿り着いてしまうのだろう。 「ケイ……あんたを呼ぶたびに胸が苦しくなる。なんだよこれ……あんた、俺に何をしたんだよ……っ」  起きあがろとした彼の上に覆い被さり、唇を塞いだ。彼の唇はそれを望んでいたように無防備で、けれど積極的に舌を絡めてきた。熱に浮かされているような温度に驚きながら、啓は自分も同じだと伝えるように、追い立てられるように唇を重ねた。
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