プロローグ

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 今日も美沙緒の夫、英治は本を万引きした女子高生をとっ捕まえ、事務所に連れ込み、「警察に黙っててやるからヤらせろ」とひねりのない脅し文句で女子高生を組み敷いている。  駅から歩いて10分ほどの小さな本屋である。近くには進学校と工業高校があり、前者は参考書を、後者は雑誌や漫画本を購入する。そして一部の学生はレジを通さずそれらを持ち去る。  英治は工業高校の学生は見て見ぬ振りをし、進学校の学生は問答無用で警察を呼び、女の場合はセックスに持ち込む。一体、この卑劣な男のどこを好きになったのだろう。美沙緒は事務所内を映すモニターを眺めながらため息をついた。単価の高い参考書を盗られる方が痛手なのは確かだが。  そこへ工業高校の学生が3人、美沙緒のいるレジへやってきた。モニターはカウンターの下にあるため、彼らに見られることはない。 「おばちゃん、バイト募集してないの?」  野球部だろうか。よく見たら3人とも坊主頭で、顔が黒い。 「人を雇う余裕はないのよぉ」  つい猫撫で声になる。若い男と話すのは気分がいい。 「そっかぁ、そうだよね」  漫画本を手に去っていく。なんだもう終わりかと、美沙緒はがっかりした。やっぱりバイトを募集しようか。人手は足りているが、若い男との関わりが欲しい。美沙緒は今年46になる。美人と言われたことも、ブスと言われたこともない。髪が綺麗だと美容師に褒められるが、そのせいで、背後から目利きのできない若者にナンパされ、何度嫌な思いをしたかわからない。美沙緒が服装に気を使わなくなったのはそのためである。おばさんと思われるよりも、若いと思われる方が辛いとは思ってもみなかった。  英治は女子高生を事務机に寝かせ、立ったまま機関車のように盛り上がっている。扉ごしにガンガンと騒がしいが、幸い店内には誰もいない。美沙緒はすっかり見張り役だ。  美沙緒は熱くなった指先でポルノサイトにログインし、新規作成に「万引き美少女を卑劣店主が凌辱! パート12」と打ち込んだ。編集もしないで亭主と女子高生のセックスを垂れ流す。  パート1から3まではそこそこの金が集まったが、4でガクンと落ち込んだ。英治のワンパターンに飽きたのだろう。美沙緒は機材を購入し、事務机の真上から撮影したりと工夫したが、アングルだけでは限界があった。「万引き女子高生を凌辱」というテーマはアダルトコンテンツにおいて不滅だろうに、そこにもバリエーションが必要らしい。さてどうしたものか……美沙緒は伸び悩む再生回数を睨んだ。  夫への腹いせで、警察を動かすための投稿だったのが、今では完全に小遣い稼ぎだ。犯罪行為を垂れ流したって、警察は動きやしない。このサイトに出入りするのは犯罪者予備軍の変態ばかりだ。最初のうちは「凌辱」に釣られて金を落とす変態視聴者に嫌悪を抱いたが、今ではお客様だと思って、彼らの求めるものをリリースしたいと真剣に考えている。変態は本屋の客より気前がいい。  モニターの中の二人が服を整え、美沙緒は慌てて画面を店内映像に切り替えた。背後の扉が開き、「じゃあ、もう二度とこんなことするんじゃないぞ」と偉そうに英治が言う。女子高生は真っ青な顔で頷き、出ていった。
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