0人が本棚に入れています
本棚に追加
首都にある某駅。毎日数百万人が利用するこの駅にある忘れ物センターで、この日、事件が起こった。
俺は、今日もご機嫌だ。とても気分が良い。何故なら、この忘れ物センターでは俺には誰も逆らえないからだ。勤続三十年で、多方面にもコネが効き、太いパイプを持つ俺が、いくら悪どい事をしていても、見て見ぬ振りをする事。それが、ここで最も賢く、懸命な上、おこぼれまで手に入る唯一の方法なのだから。俺は、ここでなら、いつ何時も堂々と隠蔽も横領もやり合い放題なのだ。
だが、たまに頭の悪い新人が来て、俺様に意見したり、俺の悪事を盾に歯向かって来るヤツがいるが、そう言うヤツには、逆に罪をなすり付けた上、これ以上に無いくらいの屈辱を味合わせて追放してやるのさ。それは、他の職員への抑止力にもなるし、何より俺が楽しいのだ。
俺は、ここの支配者なのだ。誰にも俺を止める事は出来ないし、これからも俺の支配は続いていくのだ。
こんな傍若無人で、悪事をつくす男の元へ、一人の男がやって来た。時計の針は正午数分前だった。内心イラついたが、男はいつもの様に愛想よく対応した。
「どうされましたか?」
「指輪!指輪の忘れ物は届いてないですか⁈」
その男は、息絶え絶えで必死な様相だった。俺は直ぐにピンと来た。『この焦り様…、経験からすると、この男、とんでもないものを無くしたな…』と。
「どう言った物ですか?」
「大きなダイヤの…、五カラットくらいの大きなダイヤの様な石が付いた指輪なんです…!」
ビンゴだ。届いていた。見た事もないくらいの大きなダイヤが付いた指輪が。だが、もう遅い。しっかり俺が着服している。今も肌身離さず、上着の内ポケットに入れている。
「少々お待ち下さい」
俺は、そう言っていつもの様にリストを見るふりをした。もちろんリストには載っていない。載せてもいないのだから、当たり前だ。
「いやー、残念ながらまだ届いていませんね。一応、届きましたら連絡をしますので、ここに記入をお願いします」
俺が連絡用紙を差し出すと男は、時計を確認して、諦めた様子でそれを拒否した。
「いや、もういいです。時間切れですから…」
俺は無駄な事と知りながら、マニュアル通りに男に連絡先を書く様に促した。
「何言ってるんですか?もしかしたら誰か親切な人が届けてくれるかもしれませんよ?とても高価な物なんでしょ?」
俺は、いつもの様に心にも無い適当な慰めの言葉を、この哀れな男に言ってやった。内心では、いつものこの様子のおかしさに必死に耐えながら。
「大切な物ですが、別に高価な物ではないですよ。安価で生産する事が目的でしたから…。実を言うと、その指輪に付いているのは、ダイヤなんかじゃ無いんです。ダイヤそっくりに作られた新型の爆弾なんです。威力こそ人が一人、爆散する程度の小さな物ですが、危険な物には変わりありません。でも幸いな事に、肌身離さず持っていたら、たとえ人が隣にいても被害はない事が、実験で実証済みです。
親切な方が、もしこのセンターに届けてくれていたら、危ないと思って来たのですが、届いてないのであれば、きっと悪い奴が上着の内ポケットにでも隠し持っている事でしょう。恨みはないですが、そんな奴が一人消えるだけです。
時限装置のリミットは正午丁度。ほら。あと二秒で正午ですよ」終
最初のコメントを投稿しよう!