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千葉くんの部屋のベランダからは、通いなれた大学のキャンパスがよく見える。通学時間、走れば三十秒。
彼は距離が短いのをいいことに、授業ギリギリまで惰眠をむさぼることもしばしば。それをわたしが起こしに来ることも、しばしば。
本当は、ここにいることを知られたくない。いつ下の道路を同級生が通るか知れないのだ。部屋の中に引っ込んでいるのが安全。だけど、ついベランダに出てしまう。
本当の本当は、ここにいることを知ってほしいのかもしれない。どうかわたしを見つけて。
「あーっ、アイス。いいなあ」
ベランダの柵にもたれて棒アイスをかじっていると、起きたらしい千葉くんが小学生みたいに不満の声をあげる。
「千葉くんのも買ってきたよ。冷蔵庫の中」
「それはそれ。ほのかが食べてるのが欲しい」
冷蔵庫にあるのは今わたしが食べているのと全く同じ商品なのに。人のものを欲しがる彼にわたしの食べかけを差し出す。
「冷たー。目ぇ覚めるわ」
半分以上わたしが食べてしまったそれを残り全部完食してしまう彼に対して怒るべきなのかもしれない。でもいつも許してしまう。
あたりともはずれとも書かれていないただの棒きれが、ぽいっとゴミ箱に投げ捨てられた。
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