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①踊り子姉妹
聡美さんと真希さんはよく喧嘩する。
踊りの息が合わないのは、どっちが悪いか、下手くそ下手くそって言い合って。僕はそれを見ながら太鼓の稽古をして、リズム感が悪いとか先生に怒られて。ため息。ため息すると、ため息するなってまた怒られて。コレは血筋という因縁にやられちゃってる。そう思う。
聡美さんと真希さんは姉妹。
踊りの先生の娘さん。だから、どっちも踊る。端唄に合わせて。エンヤラヤ。畳の上で足袋を擦って。
僕?僕は、先生が外で作った子。で、お母さんお金無くて、先生に借金して返せなくて、僕その…借金の肩代わりで、この家に来たから仕方ないのかな太鼓の稽古。
先生は偉いから他所にも行く。
その間は、奥さんが娘さんに稽古をつける。他の生徒さんもいるから、娘さんたちには一層厳しくて、僕は稽古の後に聡美さんと真希さんから八つ当たりされることもある。理不尽。
そんな毎日ももうすぐ6年になる。
だけど、真希さんは時々
「悠太。暑いからアイスあげる。」
そう言ってパルムとかMOWとか食べさせてくれる。
「真希さん、ありがとうございます。」
「うん。」
僕がアイスを食べ始めると真希さんは泣き出す。コレは決まって聡美さんだけ褒められた時。だから、僕は聡美さんだけ褒められないかなって思うようになってしまった。
「私の何がいけないの?私、がんばってるのに。ねえ悠太?」
「…わかりません。」
「バカ!」
アイスを食べながら、真希さんの背中をさする。慰めているふりをしていると真希さんはしがみついてくるから少し優越感。僕の性格の悪さには呆れちゃうんだ。
「ねえ、聡美なんか嫌いって言って。」
「…嫌いなんて言ったら、本当にそうなっちゃいます。それに聡美さんも真希さんを嫌いになっちゃうし。」
「パルムあげたのに!」
頭をなでなでしてよしよしって言ってあげる。
「悠太のくせに!!」
僕はそんな風に泣いている真希さんを見ても何の同情も浮かんでこなくて、そればかりか、家の中のことだけで世界が完結するこの人の了見を笑うしかないってそう思う。とはいえ、お世話にはなっているのだから、それなりに答えようとは思うのだ。
「僕は真希さんの踊りはしなやかで見ていると手が止まってしまいそうになります。先生たちは、今更褒めないんだと思いますよ。本当に踊りを褒めるのはお客さんたちで、身内に褒めてもらって喜んでいるなんて真希さんには似合わないと思います。」
中学生ともなればそれなりに考えのあるようなことは言えるようにはなるものだ、と、自分を褒める。誰も僕なんかを褒めないから、自分でそうするしかないのだ。
「悠太なんか、嫌い!」
睨まれて、右ほほに噛みつかれる。前歯が食い込んで嫌な気分。痛いなって思うけど、僕は外の子だから我慢する。悪いのは僕のお母さんだ。
あとは決まって、八つ当たりのビンタ。アイスはもらえても、暴力を振るわれないことはない。
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