新世界

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 僕とリラは上人に言われた通り、まずはテントを張った。  川からは遠すぎず、近すぎず。上人いわく、ジョウドの川が氾濫するようなことはまずないはずだけど、僕たちは用心して川よりも小高い灰の丘に住むことにする。  氾濫とは川幅から大きく水があふれて周りにあるものを押し流してしまう現象だ。天候が存在するジョウドでは稀にそういうことが起きるらしい。「自然災害」というのだと上人は教えてくれた。  上人は物知りだ。学校では教えてくれないようなことも、特別に僕らは彼に教わった。僕とリラはジョウドに降りる前にそれぞれの船から「天生」というごく小型の船に移動したのだが、そこで上人からジョウドでの暮らしの心得を賜ったのだ。  ジョウドには天候があり、自然の川や風がある。本物の空と大地がある。かつてたくさんの人類や動物、植物が暮らしていた場所で、船の環境はその頃のジョウドを模して造られている。船と違って、ジョウドの大地には限りがなく、時の流れとともに空の色は変わる。川が流れついた先には海という大きな水たまりがある。「雨」という水が空から降り、気温が低いとそれは「雪」という結晶になる。  上人の話すジョウドの話に僕は目を輝かせた。リラがどうしていたかは思い出せないけれど、少なくとも今の僕らは同じ顔をしている。不安にまみれて泣きそうで、それを相手に悟られまいと必死にこらえている顔。  だけどそれも仕方がない。話し上手な上人にのせられて僕はジョウドに希望を持ちすぎたのだ。聞くと見るとでは大違い、僕らの故郷で、理想郷であるはずのジョウドにはいま、見渡す限りの灰しかない。だけどそれでいい。だって僕とリラはここを楽園にするために来たのだから。  
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