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食事の前に僕らは船に初めての通信をした。
こんなに灰だらけで本当は途方に暮れていたのに「万事順調」と口にしたときはどこかうすら寒くなったけど、別に間違ってはいないと思う。むしろ初めて地上に降りた英雄の第一声としてはこれがいちばんふさわしいはずだ。リラがどう思っていようが、僕はいつだって希望でありたい。人々にとっても、自分自身にも。
僕とリラは丘の上に並んで立っている。さっきからずっと上をみあげているせいで首が痛いけど、そうせずにはいられない。ジョウドに広がるほんものの星空がすばらしすぎるからだ。ほんとうは寝転がりたいところだけど、さすがの僕らも灰の大地に全身をあずける勇気はない。ただ、このすばらしい景色を見てもリラの不満は消えないようだ。
「なにが英雄よ。差別主義者の思う壺ね。私たちはただの実験体。見渡す限り灰だらけで、ここを森に変えろだなんて正気の沙汰じゃない」
「きっと大丈夫だよ。種はいっぱいある。そのどれかひとつでも実をつければ成功じゃないか。川は見つかったし、この灰の下には栄養豊富な土だってある。大丈夫だよ。ジョウドはきっとよみがえる。諦めないで何度でもやってみればいい」
「バカみたい。気が遠くなるわ」
吐き捨てるようにリラが言った。
彼女の言うこともわかる。残念だけど、僕ら福音の子供は船の中で差別を受けるマイノリティであったのは事実だし、たった二人で緑の大地の礎をつくるなんて計画、だいぶ無茶だ。だけど実際にジョウドに降り立った今、僕はどうしても投げやりにはなれない。
絵の具で塗りこめたような黒い空に散らばる無数の光。それは闇を押しのけて煌々と輝いている。すべてを埋め尽くす圧倒的な光の下に僕たちはいるのだ。これが希望じゃなくてなんだというのだろう。
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