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「……ようやく見つけた。これが、あの菌か」
ある一人を筆頭に、数人の白衣を着た者達が、菌の保管場所を囲んでいる。
世界中で蔓延した菌を、後世の研究の為に保存しておく機関がある。ここに管理されている菌はどれも感染力が強く、扱いを誤れば、それこそ人類を滅ぼし兼ねない。よって、その機関は極一部の信頼された研究者しか入ることが許されず、厳重な警備の元、管理されている。
いわば世界を破壊できる兵器を保存しているようなものである。この囲んでいる者達は、そんなモノに近づける権利を得ているのだ。
「これが再び開放されれば、またあの生活に戻れる」
一人が呟いた。他の者達は賛同し、頷き合った。気持ちは一つだった。
この者達の目的は一つ。
再び菌を蔓延させ、誰もがマスクをしていた世界に戻す事。
この者達は、マスクを付けていたおかげで見た目が良いともてはやされた。素顔を晒していた頃は悲惨だった。実績より顔の醜悪さを評価され、不当に蔑まれ、心無い言葉をぶつけられてきた。
だからこそ、あの菌が蔓延し、マスクを付けることが当たり前になった事を誰よりも喜んだ。こんな世界が永遠になればいい、そう願っていた。
マスクのおかげで、順風満帆な世界を過ごすことが出来た。
そんな折、ワクチンが出来てしまった。完成を遅らせようと、ばれない程度にさりげなく妨害していたのだが、そんな苦労は報われなかった。
この者達は嘆いた。また見た目だけで評価される世界に戻るのかと。今や、どこでもマスクを付けていると奇異の目で見られるようになってしまった。
この者達にとって、世界を壊したワクチンなど害悪でしかないのだ。
「もう二度と、顔で判断されたくない。再び、この菌を解き放ち、私達の世界を取り戻すんだ」
決意を胸に込め、そして……。
……その日、パンデミックの地獄の門が再び開かれた。
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