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「良かったの? そんなにすぐ出て来ちゃって」
「大丈夫、大丈夫。あのヘボ王子は、今頃は脳みそお花畑の騎士達と一緒に夢の中だから」
そう答えて、スリスリとカナの肩口に頬を擦り付ける。親愛の表現かと思ったら。
「あのバカ王子にキスされた~~~! 最悪!」
カナは苦笑して自分の袖で少女の頬を拭った。
「ごめんね、私のせいで」
「いいよ、カナがされたんじゃなくて良かった」
「うん、ありがとう」
二人で笑みを交わす。
「ところでいつまでその格好なの?」
カナの問いに、少女は「そういえば」と自分のドレスの胸元に手を添える。ぽんぽん、と二度叩くと、一瞬で少女の姿が変化する。
翠の瞳、白金の髪、カナより頭一つ高い背。
紺色のローブを纏った青年の姿に。
「クロード、本当にありがとう、助けてくれて」
「まあ、僕の責任でもあるからね」
クロードは、魔術塔のマスターの証である金のブローチを撫でて、神妙に答えた。
「異界から聖女を呼び出す。興味だけでその誘いに乗ってしまった償いは、これくらいではできないかもしれないけど……」
カナは首を振った。
「それでも、クロードが居てくれなかったら、私は二度とあの城の外に出ることが出来なかったかもしれないから」
カナは思い出す。
深夜残業からの帰り、疲れから足元がおぼつかなくなったのかと思ったら、地面が急にぐにゃりと歪んで自分を飲み込んだ時の事を。
そして目が覚めたら、見たこともないキラッキラの王子様のような青年が前に立っていて、驚いた事を。
王子様のような青年は事実王子様で、カナが『聖女』であると優しく語りかけてきた。
言っている事は何故か分かった。でも不安で不安で怖くて。
思わず差し出された王子の手を取り、口を開こうとした時、頭の中に声が響いた。
『彼と話してはいけない、このままじゃ、君は飼い殺しにされてしまう』と。
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