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「ねぇ!買い忘れあった!」
「えっ?」
明里は私の返事も待たず、履いてきたスニーカーに足を入れ、康平を押しのけるように外へ出て行く。
「買い忘れ?」
「何忘れたん?俺が持ってるかも――」
口々に言う私と康平の腕を引いて、
「お酒が足りないよっ」
そう言う明里の顔は、どこか必死に見えた。
どうしたんだろう?
「康平が買ってきてくれたのだけ冷蔵庫に――」
「急がないとお店しまっちゃうよ」
頑なに買い出しに行きたがる明里を見て、康平が苦笑いした。
「明里って一度言い出したら聞かないし、とりあえず行こう」
買ってきてくれたもの、冷蔵庫に入れなくていいのかな。
そう思いながら、私は渋々玄関の鍵をかけ、戸締りをする。
アパートの敷地を出た所で、明里が徐に私の手を掴んで口を開いた。
「美咲、警察に電話したほうがいいよ」
突拍子もない言葉に驚いて、えっと聞き替えそうとした瞬間、明里の手に口をふさがれる。
「あのね、さっきインターホン鳴って、美咲が玄関行ったでしょ?」
明里が小声で言った。
ひとまず近くの公園に向かいながら、私は話に耳を傾ける。
「――うん」
「そしたらね、たぶん部屋に誰もいないと思ったんだと思うけど、美咲のベッドの下から……」
明里はそこで口を閉ざした。
話の先が気になって、私は促す。渋るような表情をしつつ、明里は重い口を開いた。
「手が、出てきたの」
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