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怖い。
でも、それ以上にその正体を確かめたかった。
またベッドの下…?でも、この間までそこにはホームレスの男の人がいた。
直感的に、それはないと感じた。
他に隠れられる場所といえばクローゼットだけど、ついさっきまでそこで作業してたから人が隠れているなんてありえない。
他に隠れられるとしたら――
私は、浴室乾燥の止まったお風呂場を見つめた。
この扉の向こうしかない。
扉に手を当て、ゆっくり押す。
ギィィ…
扉が軋んだのと同時に、廊下から足音が聞こえた。
「シャンプーとリンスは急いで今持ってかなくてもよくない?」
後ろから聞こえた康平の声に、私は思わず扉を強く押していた。
扉の向こうから、冷たい風が流れてきた。
誰もいないしんとしたお風呂場がそこにあった。
何だ、誰もいない。
「喚起して出たつもりだったけどオフになってたから、かび臭くないか気になって」
咄嗟に言い訳しながら、私はお風呂場の扉を閉める。
その時、何気なく視線を上に向けると、天井の点検口の隙間がいつもより大きく見えた。
明里の部屋に戻ってからも、洗面所での出来事が頭に残っていた。
換気扇は私がつけたと思い込んでいただけなのかもしれない。
点検口の隙間が大きく見えたのは、気のせいかもしれない。
誰かがいると思い込んでいたから、そう見えた可能性だってある。
だから、警察に言うなんて大それたことはできなかった。
ただ、気味が悪いと感じる気持ちは日に日に増すばかりだった。
そしてそれに比例して、引っ越して気分を一新してしまいたいという気持ちも増していった。
いつまでも明里の部屋に居座るのも、迷惑をかけてしまう。
不気味に感じる部屋に戻るくらいなら、引っ越してしまった方が楽だった。
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